自己破産で年金・iDeCoは差し押さえられる?種類別の扱い

自己破産をしても、国民年金や厚生年金、障害年金、遺族年金を受け取る権利そのものが失われるわけではありません。iDeCoや企業型確定拠出年金も、法律上、給付を受ける権利が差押えから保護されています。

ただし、「年金を受け取る権利」と「振り込まれた後の預金」は別物です。年金が銀行口座に入金された後は、預金残高として評価され、口座凍結や相殺、財産目録への記載が問題になることがあります。また、個人年金保険のように、名称に「年金」と付いていても生命保険契約として解約返戻金が問題になるものもあります。

  • 国民年金・厚生年金などの公的年金の受給権は、自己破産で失われない
  • iDeCo・企業型確定拠出年金は、確定拠出年金法により原則として差押えが禁止されている
  • 確定給付企業年金も、確定給付企業年金法により受給権が保護されている
  • 個人年金保険は、公的年金やiDeCoと同じ扱いとは限らず、解約返戻金を確認する
  • 年金振込後の預金は、財産目録・口座凍結・相殺の問題として別に整理する

坂尾陽弁護士

年金という名前だけで「必ず守られる」「必ず処分される」と判断すると危険です。制度名、受給権、振込口座、保険契約の4つを分けて確認しましょう。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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自己破産で年金・iDeCoは差し押さえられる?まず結論

自己破産で年金がどうなるかは、年金の種類によって結論が変わります。公的年金や法律で差押えが禁止されている企業年金・確定拠出年金は、受給権そのものが破産手続で換価されるのではなく、原則として手元に残る方向で扱われます。

一方で、個人年金保険、年金払いの生命保険、年金として受け取った後の預金残高などは、別の財産として評価されることがあります。まずは次の表で、制度ごとの基本的な扱いを整理しましょう。

種類 自己破産での基本的な扱い 特に確認すべきこと
国民年金・厚生年金 受給権は原則として差押禁止。自己破産しても受給資格自体は失われない 年金振込口座、年金額改定通知書、年金証書、滞納税金の有無
障害年金・遺族年金 生活保障性が強く、受給権は原則として保護される 受給中の金額、振込口座、生活費・医療費・介護費との関係
iDeCo・企業型確定拠出年金 給付を受ける権利は原則として差押禁止。破産管財人が通常の預金のように引き出すものではない 運用資産残高、加入者資格、掛金継続の可否、税金滞納の有無
確定給付企業年金 受給権は法律上差押禁止とされるのが基本 制度名、年金証書、脱退一時金・退職金との区別
国民年金基金・厚生年金基金関係 制度・規約上の受給権保護が問題になるため、資料確認が必要 基金名、受給通知、規約、移換・一時金の有無
個人年金保険・年金払い保険 生命保険契約として解約返戻金や受取権が財産評価されることがある 契約者、保険料負担者、解約返戻金、受取開始時期
年金振込後の預金 入金後は預金残高として扱われ、口座凍結・相殺・自由財産拡張の問題になる 借入先銀行か、残高、生活費としての必要性、引出しの記録
MEMO

自己破産で守られるかどうかは、「公的年金か私的年金か」だけではなく、個別の法律で差押えが禁止されている受給権か、解約返戻金のある保険契約か、すでに預金化しているかで判断します。


年金の受給権と振込後の預金は別に考える

自己破産では、破産手続開始時に破産者が有している財産は原則として破産財団に属します。もっとも、破産法では、差し押さえることができない財産は破産財団に属しないものとされています。したがって、別の法律で差押えが禁止されている年金受給権は、原則として破産手続で換価される財産から外れる方向で整理されます。

ここで重要なのは、守られる対象が「年金を受け取る権利」なのか、「すでに口座に入ったお金」なのかという点です。年金受給権は差押禁止でも、振込後の預金残高は銀行口座の財産として確認されます。預金残高が大きい場合は、現金・預金として処分対象になるか、自由財産として残せるか、生活費として必要かを説明することになります。

受給権が守られても、口座凍結や相殺は別問題

年金の振込口座が借入先の銀行である場合、受任通知や支払停止をきっかけに口座が凍結され、預金と借入金の相殺が問題になることがあります。年金そのものが止まるわけではなくても、当面の生活費を引き出せなくなると生活再建に支障が出ます。

年金受給中に自己破産を検討する場合は、自己破産で現金・預金をいくら残せるかや、借入先銀行と振込口座が同じかを早めに確認してください。口座を変更する必要がある場合でも、資金移動の理由と時期を説明できるようにしておくことが大切です。

注意

年金が入った口座から多額の現金を引き出したり、家族名義の口座へ移したりすると、財産隠しや使途不明金を疑われることがあります。生活費として必要な支出でも、通帳、領収書、家計簿で説明できる形にしておきましょう。


国民年金・厚生年金・障害年金・遺族年金の扱い

国民年金法は、給付を受ける権利について譲渡・担保提供・差押えを禁止する規定を置いています。厚生年金保険法にも、保険給付を受ける権利の保護に関する規定があります。そのため、自己破産をしたからといって、国民年金や厚生年金を受け取る権利そのものがなくなるわけではありません。

障害年金や遺族年金も、生活を支える重要な給付です。自己破産手続では、受給権を失うというより、毎月の収入として家計収支表に記載し、生活再建の見通しを説明する場面が中心になります。年金受給者であることは、自己破産ができない理由にはなりません。

税金滞納による差押えの例外は別に整理する

公的年金の受給権には、国税滞納処分などに関する例外規定が置かれているものがあります。これは、消費者金融、カード会社、銀行などの一般の借金について自己破産する場面とは別の問題です。税金、社会保険料、国民健康保険料などの滞納がある場合は、免責される借金かどうか、滞納処分が進んでいないかを分けて確認する必要があります。

税金の滞納がある場合は、自己破産をしても当然に消えるわけではありません。年金収入だけで生活している方ほど、分納、猶予、生活保護、家計の見直しを含めて、自己破産しても税金は免除されない場合の対応を検討しましょう。

年金収入は家計収支表で正確に説明する

年金受給中の自己破産では、年金額、支給月、同居家族の収入、医療費、介護費、家賃、光熱費などを家計収支表に反映する必要があります。年金だけで生活している場合でも、借金返済を止めた後に家計が成り立つかを裁判所に説明できるようにしておくことが重要です。


iDeCo・企業型確定拠出年金は原則として没収されない

iDeCoは、個人型確定拠出年金です。確定拠出年金法では、給付を受ける権利について、譲渡、担保提供、差押えを禁止する規定が置かれています。そのため、自己破産をしても、iDeCoの年金資産を通常の預金や投資信託のように破産管財人が換価するわけではありません。

企業型確定拠出年金も、確定拠出年金法に基づく制度です。会社を通じて加入しているか、個人でiDeCoに加入しているかにかかわらず、まずは確定拠出年金としての受給権保護を確認します。

自己破産を理由にiDeCoを解約して費用に充てるとは考えない

iDeCoは老後資金を作るための制度であり、原則として自由に中途解約して引き出せるものではありません。iDeCo公式サイトでも、老齢給付金は原則60歳から受け取る制度として説明されています。自己破産費用を準備するために、iDeCoを解約して使うという発想は基本的に適しません。

費用面で不安がある場合は、iDeCoを無理に崩すのではなく、弁護士費用の分割、積立、法テラス、裁判所予納金の準備方法を検討します。費用が払えない場合の選択肢は、自己破産の費用が払えないときの対応で整理しています。

掛金を続けるか止めるかは家計とのバランスで判断する

iDeCoは、掛金額の変更や拠出停止が制度上用意されています。公式情報でも、掛金額の変更や掛金拠出の停止に関する説明があります。もっとも、自己破産の準備中に掛金を継続するかどうかは、家計の状況、生活費、税金滞納、弁護士費用、家族構成によって慎重に判断すべきです。

返済を止めても毎月の生活費が不足する状況で、老後資金の積立だけを継続すると、家計改善の説明が難しくなることがあります。一方で、少額の掛金で生活に支障がなく、制度上の合理性が説明できる場合もあります。自己判断で一律に止める、又は一律に続けるのではなく、家計表を見ながら検討しましょう。

MEMO

iDeCoや企業型DCは、差押禁止の受給権として保護されることが基本です。ただし、裁判所や弁護士に存在を隠してよいわけではありません。運用残高や加入状況の資料を提出し、保護される制度であることを説明できるようにします。


確定給付企業年金・国民年金基金など上乗せ年金の扱い

会社員や公務員、自営業者の方は、公的年金以外に、企業年金、国民年金基金、厚生年金基金関係の給付、退職金共済などに加入していることがあります。これらは名称が似ていても、根拠法、規約、受け取り方、解約・脱退の可否が異なります。

確定給付企業年金法では、受給権について譲渡、担保提供、差押えを禁止する規定が置かれています。そのため、確定給付企業年金の受給権は、公的年金と同じく、破産手続で通常の預金のように換価されるものではない方向で整理します。

制度 確認する資料 注意点
確定給付企業年金 年金証書、受給通知、企業年金の制度資料 受給権は保護されるのが基本だが、脱退一時金・退職金との区別を確認する
企業型確定拠出年金 加入者通知、運用報告書、残高通知 確定拠出年金法上の保護を確認し、掛金継続の家計影響を整理する
国民年金基金 加入員証、年金証書、支給通知、規約資料 国民年金との関係、受給中か加入中か、基金の給付資料を確認する
厚生年金基金・企業年金連合会関係 支給通知、移換通知、連合会からの案内 制度廃止・移換の有無、代行年金・一時金の有無を確認する
中小企業退職金共済・小規模企業共済など 共済契約者番号、残高・見込額資料、退職金見込額資料 退職金・共済制度の記事で個別に整理する必要がある

特に、退職金、脱退一時金、解約手当金、共済金などは、制度によっては「年金」ではなく退職金・一時金として評価されることがあります。退職金の見込額や証明書の問題は、自己破産で退職金がどう評価されるかもあわせて確認してください。


個人年金保険・年金払い保険は公的年金と同じ扱いではない

注意が必要なのは、保険会社の個人年金保険や、年金払いで受け取る生命保険です。これらは「年金」という名称でも、国民年金や厚生年金、iDeCoとは異なり、保険契約としての財産価値が問題になることがあります。

契約者が破産者本人で、解約返戻金がある場合は、生命保険と同じように財産として評価されます。受取開始前であれば解約返戻金、受取開始後であれば将来の受取権や入金後預金が問題になることがあります。契約者、被保険者、受取人、保険料の出どころを確認しましょう。

  • 契約者が本人:解約できる地位と解約返戻金が本人の財産として問題になりやすいです。
  • 受取人が本人:保険金・年金を受け取る権利の発生時期と財産性を確認します。
  • 家族名義の契約:名義だけでなく、保険料を誰が負担していたかを見られることがあります。
  • 年金払い開始後:将来の受取権と、すでに振り込まれた預金残高を分けて整理します。

個人年金保険を残せるかどうかは、解約返戻金の額、裁判所の運用、自由財産拡張の可否、生活保障の必要性などによって変わります。生命保険・学資保険と同じく、保険証券と解約返戻金証明書を準備し、自己破産で生命保険・学資保険がどう扱われるかを踏まえて判断する必要があります。

注意

申立前に個人年金保険を解約して現金化したり、家族名義へ変更したりする行為は危険です。使途不明金、財産隠し、偏頗弁済、名義変更による不当な財産移転として問題になる可能性があります。


年金振込口座が凍結される場合の注意点

自己破産で年金受給者が特に困りやすいのは、年金の受給権そのものではなく、年金が振り込まれる銀行口座です。借入れのある銀行に年金が振り込まれている場合、受任通知後に口座が凍結され、生活費を引き出せなくなることがあります。

また、銀行が持っている貸付金債権と預金債権を相殺することにより、口座内の預金が借金の返済に充てられることがあります。年金として入ったお金でも、入金後は預金として扱われるため、相殺・凍結のリスクを軽視しないでください。

年金振込口座を変更する場合も記録を残す

年金振込口座が借入先銀行になっている場合は、受任通知を送る前に、振込先変更の要否を弁護士と確認します。変更する場合でも、財産隠しではなく生活費確保のためであること、変更前後の通帳・入出金履歴を提出できることが重要です。

自己破産後も銀行口座を使えるか、新規開設や凍結解除がどうなるかは、自己破産後も銀行口座は使えるかで詳しく扱います。この記事では、年金受給中の申立準備として、まず借入先銀行と年金振込口座の一致を確認することが重要です。

生活費として必要な残高は自由財産拡張で説明することがある

年金振込後の預金残高がある場合でも、それが直ちにすべて失われるとは限りません。家賃、食費、医療費、介護費、公共料金など、生活再建に必要な支出がある場合は、自由財産拡張や生活費としての必要性を説明することがあります。

ただし、自由財産拡張は自動的に認められるものではなく、裁判所の運用や個別事情によります。年金が振り込まれた後の残高、引出し、支出について、家計簿と資料で説明できる状態にしておきましょう。


年金受給者・高齢者が自己破産前に準備する資料

年金・iDeCo・企業年金がある場合は、制度ごとの資料をそろえることで、保護される受給権なのか、評価が必要な財産なのかを判断しやすくなります。資料が不足すると、裁判所や破産管財人から追加説明を求められ、手続が長引くことがあります。

資料 主な取得先・確認先 確認目的
年金証書・年金額改定通知書・振込通知書 日本年金機構、年金事務所、手元書類 公的年金の種類、受給額、支給月を確認する
通帳・取引明細 各金融機関、ネット銀行 年金振込口座、残高、相殺・凍結リスク、生活費支出を確認する
iDeCo・企業型DCの残高通知 運営管理機関、勤務先、記録関連運営管理機関 確定拠出年金としての加入状況と資産残高を確認する
企業年金・基金の支給通知 勤務先、企業年金基金、企業年金連合会等 制度名、受給権、一時金の有無を確認する
個人年金保険の保険証券・解約返戻金証明書 保険会社 生命保険契約として財産評価が必要か確認する
医療費・介護費・家賃などの資料 病院、介護事業者、賃貸人、公共料金明細 年金収入だけで生活再建できるか、自由財産拡張の必要性を説明する

自己破産の必要書類全体は、自己破産の必要書類一覧で整理しています。年金受給者の場合は、通常の通帳や収入資料に加えて、年金関係の通知、企業年金の資料、保険関係資料を早めに集めておくと安心です。

年金受給者は生活保護・介護・住居も一緒に検討する

高齢者や年金受給者の自己破産では、借金だけでなく、今後の生活費、住居、医療、介護、生活保護の利用可能性も重要です。年金収入が少なく、家賃や介護費で赤字が続く場合は、自己破産だけでなく生活再建の制度も同時に検討する必要があります。

高齢者特有の注意点は、高齢者・年金受給者の自己破産でも詳しく扱います。本人の判断能力、家族の支援、成年後見、施設費用などが関係する場合は、早めに相談しましょう。


年金・iDeCoに関するよくある誤解

年金受給者は自己破産できないのですか?

年金受給者でも、支払不能であれば自己破産を検討できます。年金収入があること自体は、自己破産を妨げる事情ではありません。むしろ、返済を止めた後に年金収入だけで生活を維持できるか、家計収支を整理することが重要です。

iDeCoは自己破産で没収されますか?

iDeCoは確定拠出年金法に基づく制度であり、給付を受ける権利は原則として差押禁止です。通常の投資信託や預金と同じように没収されるものではありません。ただし、加入状況や残高を申告しなくてよいという意味ではありません。

NISAや証券口座もiDeCoと同じように守られますか?

NISA口座や通常の証券口座にある株式・投資信託は、iDeCoとは制度が異なります。差押禁止の年金受給権として扱われるのではなく、投資資産として評価される可能性があります。年金・iDeCoと同じ枠で考えないようにしましょう。

個人年金保険なら必ず残せますか?

個人年金保険は、保険契約として解約返戻金がある場合、財産として評価されることがあります。公的年金やiDeCoのように、法律上の差押禁止受給権として当然に守られるとは限りません。保険証券と解約返戻金証明書を確認してください。

年金が入った口座を家族名義に移せば安全ですか?

安全ではありません。申立前の不自然な送金や名義変更は、財産隠しや不当な財産移転として疑われることがあります。家族が管理している口座でも、実質的に本人の年金や生活費であれば、説明資料を準備する必要があります。財産隠しのリスクは、自己破産で財産隠し・債権者漏れをした場合も確認してください。


まとめ

自己破産で年金・iDeCoがどうなるかは、制度の種類ごとに分けて判断します。国民年金、厚生年金、障害年金、遺族年金などの公的年金は、受給権そのものが自己破産で失われるわけではありません。iDeCoや企業型確定拠出年金、確定給付企業年金も、法律上、受給権が差押禁止とされる制度です。

一方で、個人年金保険や年金払い保険は、生命保険契約として解約返戻金が問題になることがあります。また、年金が振り込まれた後の預金は、年金受給権とは別に、預金残高、口座凍結、相殺、自由財産拡張の問題として整理する必要があります。

  • 公的年金の受給権は、自己破産で原則として失われない
  • iDeCo・企業型DCは、確定拠出年金法上の差押禁止受給権として扱う
  • 確定給付企業年金などは、制度名と資料を確認して判断する
  • 個人年金保険は、保険契約として解約返戻金を確認する
  • 年金振込後の預金は、口座凍結・相殺・自由財産の問題として別に整理する

坂尾陽弁護士

年金やiDeCoの資料は、残せる財産を説明するための重要資料です。制度名が分からない場合でも、通知書、通帳、保険証券、残高通知をまとめておけば、手続前に安全な整理がしやすくなります。

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