自己破産と相続放棄は、「破産を申し立てたか」だけでなく、相続が始まった日と破産手続開始決定の日の前後関係で結論が大きく変わります。親族が亡くなった時期、相続放棄をした時期、遺産分割協議をした時期を混同すると、相続財産を隠した、財産を不当に減らしたと疑われることがあります。
特に注意すべきなのは、申立て後から開始決定前までの期間です。自己破産では、弁護士に依頼した日や申立日ではなく、裁判所が破産手続開始決定を出した時点を基準に、相続財産が破産財団に入るかを整理する必要があります。
- 相続開始が破産手続開始決定より前なら、相続分は原則として破産財団に入る
- 開始決定後に相続が発生した場合は、原則として新得財産として本人が扱える
- 開始決定前に相続放棄の効果が生じていれば、相続人でなかったものとして扱われる
- 開始決定前に相続が発生し、開始決定後に相続放棄をしても、破産財団との関係では限定承認の効力になる
- 家庭裁判所での相続放棄と、遺産分割協議で取り分をゼロにすることは別物
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

自己破産と相続放棄は開始決定前後で結論が変わる
自己破産で相続が問題になるときは、まず次の3つの日付を確認します。
- 相続開始日:被相続人が亡くなった日です。法律上は、この日に相続が始まります。
- 相続放棄をした日:家庭裁判所へ相続放棄を申述した日、受理された時期、受理通知書の有無を確認します。
- 破産手続開始決定日:裁判所が破産手続を開始すると決定した日です。弁護士への依頼日や申立日とは違います。
自己破産では、破産法上、原則として破産手続開始時に破産者が持っている財産が破産財団になります。相続開始が開始決定より前であれば、その時点で相続人としての権利が発生しているため、相続分や遺産分割で取得する権利が破産財団に入る方向で整理されます。
反対に、破産手続開始決定後に親族が亡くなり、相続が発生した場合、その相続財産は開始時点には存在しなかった財産です。そのため、原則として新得財産として本人が取得し、破産管財人が当然に管理する財産にはなりません。
| 相続と自己破産の時系列 | 基本的な扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 開始決定前に相続が発生し、開始決定前に相続放棄をした | 相続人でなかったものとして扱われるのが基本 | 家庭裁判所での相続放棄か、単なる家族間合意かを確認する |
| 開始決定前に相続が発生し、相続放棄をしないまま開始決定を迎えた | 相続分は破産財団に入るのが基本 | 遺産目録、戸籍、不動産、預貯金、相続債務を申告する |
| 開始決定前に相続が発生し、開始決定後に相続放棄をした | 破産財団との関係では限定承認の効力になる | 管財人の承認や裁判所許可が問題になることがある |
| 開始決定後に相続が発生した | 原則として新得財産 | 本人が相続放棄や遺産分割を判断できるが、手続中なら弁護士へ報告する |
| 相続開始前に「将来放棄する」と約束した | 法律上の相続放棄にはならない | 相続開始後、家庭裁判所で手続をする必要がある |
「自己破産後の相続」といっても、免責許可決定後を意味するのか、申立て後を意味するのか、開始決定後を意味するのかで結論が変わります。記事や説明を読むときは、どの時点を基準にしているかを必ず確認しましょう。
破産手続開始決定前に相続が発生している場合
親や配偶者などが亡くなった後に自己破産をする場合、相続財産は最初に確認すべき財産です。相続登記がまだでも、遺産分割協議がまだでも、預金の解約がまだでも、相続開始によって相続人としての権利が発生しているためです。
相続財産は原則として破産財団に入る
相続開始が破産手続開始決定より前であれば、破産者は開始決定時点で相続人としての権利を持っています。そのため、法定相続分、遺言による取得分、遺産分割協議で取得予定の財産などは、破産財団に属する財産として申告が必要です。
不動産、預貯金、株式、投資信託、自動車、保険金、貸付金、未収金などが遺産に含まれる場合は、本人名義になっていなくても資料を出す必要があります。相続登記をしていない不動産も、「名義が亡くなった親のままだから関係ない」とは考えないでください。
相続放棄をするなら開始決定前かどうかが重要
民法では、相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内に行う必要があります。相続放棄は家庭裁判所への申述によって行うもので、他の相続人に「いらない」と伝えただけでは足りません。
破産手続開始決定前に、家庭裁判所で相続放棄の効果が生じている場合、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされます。最高裁昭和49年9月20日判決も、相続放棄のような身分行為は詐害行為取消権の対象にならないと判断しています。
相続放棄をすれば常に有利とは限りません。相続財産に不動産や預金が多い場合、相続放棄をするとその財産を一切取得できません。相続債務が多い場合、相続財産の調査が間に合わない場合、自己破産の開始決定が近い場合は、相続放棄・限定承認・破産申立ての順番を急いで整理する必要があります。
相続放棄をしないまま開始決定が出ると管財人が関与する
相続開始後、相続放棄をしないまま破産手続開始決定が出ると、相続分に関する管理処分は破産管財人の関与を受けます。管財事件では、破産管財人が遺産目録を確認し、相続分の換価、遺産分割協議への対応、他の相続人との協議、不動産の売却などを検討します。
この段階で破産者本人が勝手に遺産分割協議書へ署名し、自分の取り分をゼロにすることは避けるべきです。破産財団に入るべき財産を減らす行為と見られると、否認、免責調査、財産隠しの問題につながる可能性があります。
申立て後・開始決定前に相続が発生した場合も油断しない
自己破産を裁判所へ申し立てた後、開始決定が出る前に親族が亡くなることがあります。この場合、相続開始は破産手続開始決定の前です。したがって、相続財産がある場合には、申立書類の補正、財産目録の追加、管財事件への移行可能性を検討する必要があります。
申立て後だから関係ない、弁護士に依頼済みだから何もしなくてよい、と思って相続の発生を伝えないのは危険です。相続発生が分かった時点で、死亡日、相続人、遺産の内容、相続放棄の希望、熟慮期間の満了日を弁護士へ伝えてください。
破産法238条|開始決定後にした相続放棄の効力
破産手続開始決定前に相続が発生していたのに、開始決定後に破産者が単純承認や相続放棄をした場合、破産法238条が問題になります。ここは、一般的な相続放棄の説明だけでは誤解しやすい重要なポイントです。
開始決定後の相続放棄は破産財団との関係では限定承認の効力になる
破産法238条1項は、破産手続開始決定前に破産者のために相続が開始していた場合に、破産者が開始決定後にした単純承認や相続放棄について、破産財団との関係では限定承認の効力を有すると定めています。
限定承認とは、相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を弁済する形の承認です。破産法238条の趣旨は、破産者が開始決定後に単純承認して相続債務を破産財団へ過大に持ち込むことや、相続放棄をして本来破産財団に入るべきプラスの相続財産を失わせることを防ぐ点にあります。
| 破産者の行為 | 通常の相続法上の効果 | 破産財団との関係 |
|---|---|---|
| 単純承認 | プラス財産もマイナス財産も承継する | 限定承認の効力に調整される |
| 相続放棄 | 初めから相続人でなかったものとみなされる | 原則として限定承認の効力に調整される |
| 限定承認 | 相続財産の限度で被相続人の債務を弁済する | 破産財団との関係でも限定承認として整理される |
| 管財人が相続放棄を承認 | 相続放棄の効果を尊重する方向 | 裁判所許可などを踏まえて個別に判断される |
相続財産が債務超過なら管財人の承認が問題になる
相続財産に借金や保証債務が多く、プラス財産よりマイナス財産が明らかに多い場合、破産財団にとって相続放棄を認めた方が合理的なことがあります。このような場合、破産管財人が裁判所の許可を得て、破産者の相続放棄を承認することがあります。
ただし、破産者本人が「借金が多そうだから相続放棄します」と判断するだけでは足りません。遺産の内容、債務の証拠、保証債務の有無、相続人の構成、不動産の評価、相続税や固定資産税の負担などを資料で確認したうえで、管財人・裁判所の判断を仰ぐ必要があります。
破産法238条を理由に相続放棄を放置しない
破産法238条があるから、相続放棄の期限を気にしなくてよいという意味ではありません。熟慮期間が経過すれば、民法上は単純承認とみなされるリスクがありますし、相続債務が大きい場合には相続人本人や他の相続人にも影響します。
相続放棄を検討している場合は、自己破産の申立て準備と同時に、家庭裁判所の相続放棄、熟慮期間の伸長、相続財産調査を並行して進めます。自己破産を扱う弁護士と、相続放棄を扱う専門家の間で情報が分断されないよう、両方の資料を共有することが大切です。
破産手続開始決定後に相続が発生した場合
破産手続開始決定後に親族が亡くなった場合、その相続財産は、原則として破産財団に属しない新得財産です。破産手続は開始決定時の財産を基準に清算するため、開始決定後に新たに発生した相続まで、当然に破産管財人が取得するわけではありません。
開始決定後の相続は原則として本人が判断できる
開始決定後に相続が発生した場合、本人は相続放棄をするか、単純承認するか、遺産分割協議をするかを自分で判断できます。相続財産を受け取っても、それが当然に債権者への配当対象になるわけではありません。
ただし、破産手続中であれば、弁護士や破産管財人に報告するのが安全です。報告しなくても当然に処分対象にならない場合でも、後で通帳や不動産登記に大きな変動が出ると、開始前から権利があったのではないか、財産を隠していたのではないかと誤解されることがあります。
開始決定後の相続放棄も家庭裁判所で行う
開始決定後に相続が発生した場合でも、相続放棄をするには家庭裁判所への申述が必要です。他の相続人に「自分はいらない」と伝えたり、遺産分割協議で何も取得しない合意をしたりするだけでは、法律上の相続放棄とは異なります。
被相続人に借金が多い場合、相続放棄をしないまま熟慮期間が過ぎると、相続債務を引き継ぐリスクがあります。自己破産で自分の借金が整理されても、開始決定後に新しく負担した相続債務が当然に免責対象になるわけではないため、相続放棄の期限管理は重要です。
免責後でも相続債務は別問題になる
破産手続開始決定後、免責許可決定までの間に相続が発生した場合、その相続に関する債務は、開始前の破産債権とは別の問題です。相続放棄をしなければ、相続債務を負う可能性があります。
また、免責許可決定後に親族が亡くなった場合も、通常の相続問題として、相続放棄・遺産分割・相続税・不動産管理を判断する必要があります。自己破産が終わったから相続放棄の期限も関係ない、ということにはなりません。
相続放棄と遺産分割で取り分をゼロにすることは別物
自己破産と相続で最も誤解が多いのは、「相続放棄」と「遺産分割協議で何ももらわないこと」を同じものと考えてしまう点です。両者は、手続、効果、破産手続での扱いが大きく異なります。
家庭裁判所の相続放棄は初めから相続人でなかった扱いになる
家庭裁判所で相続放棄が認められると、その相続については初めから相続人でなかったものとみなされます。最高裁昭和49年9月20日判決は、相続放棄のような身分行為について、詐害行為取消権の対象にならないと判断しています。
もっとも、これは相続放棄をすればいつでも破産手続上問題にならないという意味ではありません。破産手続開始決定前に相続が開始していて、開始決定後に相続放棄をした場合には、破産法238条による限定承認の効力が問題になります。
遺産分割協議は財産権を目的とする法律行為として問題になることがある
遺産分割協議は、共同相続人の間で、相続財産を誰が取得するかを決める合意です。最高裁平成11年6月11日判決は、共同相続人の間で成立した遺産分割協議について、詐害行為取消権行使の対象になり得ると判断しています。
つまり、家庭裁判所で相続放棄をするのではなく、遺産分割協議で「自分は何も取得しない」「不動産も預金もすべて兄弟に取得させる」と合意した場合、破産者の債権者や破産管財人との関係で問題になり得ます。
法定相続分より少ない遺産分割が常に否認されるわけではない
一方で、破産者が法定相続分より少ない財産しか取得しなかったからといって、常に違法・無効・否認対象になるわけでもありません。東京高裁平成27年11月9日判決は、遺産分割協議について、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらないとしつつ、遺産分割に仮託してされた財産処分といえるような特段の事情がある場合には問題になり得るという整理をしています。
遺産分割では、民法906条により、遺産の種類、相続人の年齢、職業、生活状況、過去の援助、祭祀承継、住居の確保など一切の事情を考慮できます。そのため、具体的事情に基づく合理的な分割と、債権者から財産を逃がすための分割は、区別して考える必要があります。
| 行為 | 手続 | 破産手続での主なリスク |
|---|---|---|
| 相続放棄 | 家庭裁判所へ申述 | 開始決定後の相続放棄は破産法238条が問題になる |
| 遺産分割で取得ゼロ | 相続人全員の協議・合意 | 財産を逃がす目的が疑われると否認・免責調査の対象になり得る |
| 相続分譲渡 | 相続分を他人へ譲渡 | 無償又は低額譲渡なら財産処分として問題になり得る |
| 遺産を隠して申告しない | 申告漏れ・資料不提出 | 財産隠し、免責不許可、詐欺破産罪のリスクがある |
破産管財人が遺産分割に関与する場合
相続開始が破産手続開始決定より前で、相続分が破産財団に属する場合、破産管財人が遺産分割や換価に関与することがあります。これは、相続人としての身分そのものを管財人が取得するという意味ではなく、相続財産から経済的価値を回収して破産債権者へ公平に配当するためです。
破産者本人が勝手に遺産分割協議書へ署名しない
破産手続開始決定後は、破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人にあります。相続分が破産財団に属する場合、破産者本人が他の相続人から求められて遺産分割協議書に署名押印すると、後で手続が混乱することがあります。
他の相続人から「破産しているなら相続しないでほしい」「書類に署名だけしてほしい」と言われても、すぐに応じないでください。署名前に、破産管財人又は代理人弁護士へ遺産分割協議書案、遺産目録、評価資料を共有する必要があります。
不動産がある場合は評価と売却方法が問題になる
相続財産に不動産がある場合、法定相続分の評価、固定資産税評価額、実勢価格、担保権、共有者の利用状況、売却可能性を確認します。居住している親族がいる場合や、共有持分だけを売却しにくい場合でも、破産管財人は換価方法を検討します。
持ち家や相続不動産の扱いは、自己破産すると住宅ローン・持ち家はどうなるかとも関係します。相続不動産を家族に残したい場合は、買戻し、代償金、任意売却、共有持分の処理などを早めに相談しましょう。
預貯金・生命保険・退職金などの相続財産も確認する
相続財産は不動産だけではありません。被相続人名義の預貯金、有価証券、投資信託、自動車、生命保険金、死亡退職金、貸付金、未収年金、家財なども確認対象になります。
生命保険金や死亡退職金は、受取人の指定、契約内容、相続財産性によって扱いが変わることがあります。自己破産側の財産調査と、相続側の権利関係を混同しないよう、保険証券、受取人欄、支払通知書を確認します。
他の相続人との連絡は感情面にも配慮する
相続に破産管財人が関与すると、他の相続人は「家族の財産が債権者に取られる」と感じることがあります。しかし、破産手続では、破産者の財産を公平に債権者へ配当する必要があります。
感情的な対立を避けるためにも、他の相続人には、相続開始日、破産手続開始決定日、管財人の役割、勝手に分割できない理由を落ち着いて説明することが重要です。本人だけで説明しにくい場合は、弁護士又は破産管財人を通じて必要な範囲で連絡します。
相続財産・相続債務を隠したときのリスク
相続が絡む自己破産では、財産が自分名義ではない、まだ遺産分割していない、家族内の話だから裁判所に言わなくてよい、と考えてしまうことがあります。しかし、相続開始が開始決定前であれば、相続分は重要な財産です。申告しないと、財産隠しや虚偽説明と見られるおそれがあります。
遺産分割未了でも申告が必要
遺産分割が終わっていない段階でも、法定相続分や具体的な相続財産の内容を申告する必要があります。相続登記が未了、預金口座が凍結中、財産調査中という事情は、申告しなくてよい理由にはなりません。
むしろ、調査中であれば「調査中」と説明したうえで、分かっている資料を提出します。戸籍、遺産目録、固定資産税通知書、金融機関の残高証明、遺言書、遺産分割協議書案などを順次追加してください。
家族名義へ移すと財産隠し・否認の問題になりやすい
自己破産の直前に、相続分を家族へ譲渡する、遺産分割で自分の取り分をなくす、不動産持分を低額で売る、相続預金を家族口座へ移すといった行動は、否認や免責不許可の調査対象になり得ます。
特に、家族や親族との取引は、裁判所や破産管財人から詳しく確認されやすい領域です。相続財産を守りたい気持ちがあっても、無断で動くほどリスクが大きくなります。財産隠しのリスクは自己破産で財産隠し・債権者漏れをした場合を確認してください。
相続債務があるときも隠さず伝える
被相続人に借金、保証債務、税金滞納、未払医療費、施設利用料、事業債務などがある場合、プラス財産だけでなくマイナス財産も確認が必要です。相続債務が多い場合は、相続放棄や限定承認を検討すべきことがあります。
自己破産の債権者一覧表には、自分自身の借金だけでなく、相続によって承継した可能性のある債務も確認対象になります。相続債務がある場合は、自己破産の債権者一覧表の作成時に漏れがないよう注意してください。
相続が絡む自己破産で準備する書類
相続が関係する自己破産では、通常の申立書類に加えて、相続関係と遺産内容を示す資料が必要になります。書類が不足していると、同時廃止で進められるか、管財事件になるか、自由財産として残せるかの判断にも影響します。
- 被相続人の死亡が分かる戸籍:相続開始日を確認します。
- 相続人関係が分かる戸籍一式:誰が相続人か、相続分がどれくらいかを確認します。
- 遺言書:公正証書遺言、自筆証書遺言、検認資料の有無を確認します。
- 遺産目録:不動産、預貯金、有価証券、保険、車、家財、債務を一覧化します。
- 不動産資料:登記事項証明書、固定資産評価証明書、固定資産税納税通知書、査定書などを準備します。
- 預貯金資料:通帳、残高証明、取引履歴、解約計算書を準備します。
- 相続放棄関係資料:申述受理通知書、申述受理証明書、期間伸長申立書などを準備します。
- 遺産分割協議書:作成済み又は作成予定の案があれば提出します。
- 相続債務資料:請求書、借用書、保証契約書、税金滞納資料、督促状を準備します。
自己破産全体の必要書類は自己破産の必要書類一覧で整理しています。相続関係の資料は取得に時間がかかることがあるため、相続放棄の熟慮期間や破産申立ての予定に合わせて早めに集めましょう。
時系列メモを作ると判断しやすい
相続と自己破産が重なる場合は、日付の前後関係が重要です。次のような時系列メモを作ると、弁護士、裁判所、破産管財人への説明がしやすくなります。
- いつ被相続人が亡くなったか
- いつ自分が相続人だと知ったか
- いつ相続放棄を検討し、家庭裁判所へ申述したか
- いつ弁護士へ自己破産を依頼したか
- いつ自己破産を申し立てたか
- いつ破産手続開始決定が出たか
- いつ遺産分割協議書を作成又は署名したか
- いつ相続財産を受け取った、又は処分したか
この時系列が整理できていれば、相続放棄が有効に済んでいるのか、破産法238条が問題になるのか、破産管財人の関与が必要かを判断しやすくなります。
自己破産と相続放棄のよくある質問
自己破産前に親が亡くなったら、相続放棄できますか?
相続開始後、破産手続開始決定前であれば、家庭裁判所で相続放棄をする余地があります。ただし、相続放棄は原則として3か月の熟慮期間内に行う必要があります。相続財産がプラスかマイナスか、自己破産の開始決定がいつ見込まれるかを確認して、急いで判断しましょう。
自己破産の申立て後、開始決定前に親が亡くなった場合はどうなりますか?
申立て後であっても、破産手続開始決定前に相続が発生していれば、開始決定前の相続として扱われます。相続財産がある場合は、財産目録の補正や管財事件への移行が問題になります。相続放棄を希望する場合も、開始決定前に手続できるか、開始決定後になるかで扱いが変わるため、すぐに弁護士へ伝えてください。
自己破産後に親が亡くなった場合、相続財産は取られますか?
破産手続開始決定後に相続が発生した場合、その相続財産は原則として新得財産であり、本人が取得できます。ただし、破産手続中であれば、開始決定後の相続であることを説明できるよう、死亡日や戸籍、遺産資料を保管し、弁護士へ報告しておくのが安全です。
遺産分割協議で自分の取り分をゼロにすれば相続放棄と同じですか?
同じではありません。相続放棄は家庭裁判所で行う手続で、初めから相続人でなかったものとみなされます。一方、遺産分割協議で取り分をゼロにすることは、いったん相続人としての地位を前提に、相続財産の分け方を合意するものです。自己破産前後にこのような協議をすると、財産処分として問題になることがあります。
相続放棄をすると免責不許可になりますか?
家庭裁判所で適法に相続放棄をしたこと自体が、直ちに免責不許可になるとは限りません。最高裁昭和49年9月20日判決も、相続放棄を詐害行為取消権の対象にしないとしています。ただし、破産手続開始決定後にした相続放棄は破産法238条が問題になります。また、相続放棄ではなく遺産分割で財産を家族へ逃がした場合は別問題です。
破産管財人から相続財産を売却されることはありますか?
相続開始が開始決定前で、相続分が破産財団に属する場合、破産管財人が相続財産の換価を検討することがあります。不動産の共有持分、相続預金、代償金などが対象になり得ます。家族が不動産を残したい場合は、代償金の支払い、持分買取り、任意売却などを管財人と協議することがあります。
相続財産が少額でも申告が必要ですか?
必要です。少額かどうか、自由財産として残せるかどうか、換価する価値があるかどうかは、裁判所や破産管財人が資料を見て判断します。自己判断で「少ないから書かない」とすると、後で財産隠しや申告漏れと見られるおそれがあります。
相続税や相続登記も自己破産で免除されますか?
相続税、固定資産税、登録免許税、相続登記の費用などは、自己破産の免責と別に整理する必要があります。相続税の申告期限や不動産登記の期限は自己破産とは別に進むため、相続財産がある場合は税理士や司法書士との連携が必要になることがあります。
相続財産を受け取った後に自己破産する場合はどうすればよいですか?
受け取った相続財産の内容、金額、使途をすべて整理してください。生活費に使ったのか、借金返済に使ったのか、家族へ渡したのか、不動産や車を取得したのかで扱いが変わります。特定の債権者への返済があれば偏頗弁済、家族への移転があれば否認や財産隠しが問題になることがあります。
まとめ|相続がある自己破産は時系列と資料整理が重要
自己破産と相続放棄は、相続開始日と破産手続開始決定日の前後で結論が変わります。開始決定前に相続が発生していれば、相続分は原則として破産財団に入り、相続放棄や遺産分割には慎重な判断が必要です。開始決定後に相続が発生した場合は、原則として新得財産として本人が取得できますが、相続放棄の熟慮期間や相続債務の確認は別途必要です。
- 判断基準は、申立日ではなく破産手続開始決定日
- 開始決定前に相続が発生していれば、相続分は原則として破産財団に入る
- 開始決定後の相続放棄は、破産法238条により限定承認の効力が問題になる
- 家庭裁判所での相続放棄と、遺産分割で取り分をゼロにすることは別物
- 遺産分割協議は、内容によって否認や免責調査の対象になり得る
- 相続財産・相続債務は、遺産分割未了でも必ず申告する
相続が絡む自己破産では、日付を1つ間違えるだけで、残せる財産、管財事件になる可能性、他の相続人との協議、免責調査の見通しが変わります。親族が亡くなった、相続放棄をしたい、遺産分割協議書への署名を求められているという場合は、戸籍、遺産目録、預貯金資料、不動産資料をそろえ、早めに弁護士へ相談してください。
坂尾陽弁護士
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