自己破産をすると、財産をすべて失うと思われがちです。しかし、実際には、自己破産でも生活再建に必要な一定の財産は手元に残せます。代表例は、99万円以下の現金、生活に欠くことができない家財道具、破産手続開始決定後に得た給料などです。
一方で、預貯金、車、不動産、生命保険の解約返戻金、退職金見込額、投資商品、暗号資産、相続財産などは、金額や時期、名義、ローンの有無、裁判所の運用によって処分対象になることがあります。大切なのは、財産を隠すことではなく、何を残せる可能性があるかを正しく整理し、必要な資料をそろえて説明することです。
- 自己破産でも、99万円以下の現金や生活に必要な家財は残せる
- 預金、車、保険、退職金、持ち家は金額・名義・ローンで扱いが変わる
- 処分基準は法律だけでなく、裁判所運用や自由財産拡張でも変わる
- 家族名義でも、実質的に自分の財産なら調査対象になり得る
- 財産隠しや直前の名義変更は、免責不許可や管財事件のリスクになる
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

自己破産で財産をすべて失うわけではない
自己破産は、借金の支払義務を免除してもらうことを目指す手続です。その代わりに、一定の価値がある財産は破産管財人が換価し、債権者への配当などに充てられることがあります。
ただし、自己破産は、生活に必要なものまで根こそぎ取り上げる制度ではありません。破産法は、破産者が生活を再建できるように、破産財団に入らない財産を定めています。たとえば、破産法では、一定額の現金や差押禁止財産が破産財団に属しないものとされています。
そのため、自己破産で最初に確認すべきことは、「財産があるかないか」だけではありません。その財産が破産財団に入る財産なのか、自由財産として残せる財産なのか、自由財産の拡張を求められる財産なのかを分けることが重要です。
自己破産で問題になる財産は、申立て時点だけでなく、破産手続開始決定の時点、開始決定後に取得したかどうか、名義と実質所有が一致しているかによって扱いが変わります。
破産財団・自由財産・新得財産の違い
自己破産の財産を考えるときは、まず「破産財団」「自由財産」「新得財産」という3つの考え方を押さえる必要があります。
破産財団とは、処分・配当の対象になる財産
破産財団とは、破産手続で換価・配当の対象になる財産です。典型的には、破産手続開始決定の時点で本人が持っている財産のうち、自由財産に当たらないものが対象になります。
たとえば、一定額を超える預貯金、高価な車、持ち家、解約返戻金がある保険、退職金見込額の一部、株式・投資信託・暗号資産、過払い金や貸付金などの債権は、破産財団に組み入れられる可能性があります。
自由財産とは、自己破産後も手元に残せる財産
自由財産とは、破産財団に属さず、破産者が自由に使える財産です。法律上当然に残せる財産もあれば、裁判所に自由財産の範囲を広げてもらうことで残せる可能性がある財産もあります。
代表的な自由財産は、99万円以下の現金、差押禁止財産、破産手続開始決定後に取得した財産です。もっとも、預貯金や保険の解約返戻金、車などは、当然にすべて残せるわけではなく、裁判所の運用や個別事情を踏まえて判断されます。
新得財産とは、開始決定後に得た財産
新得財産とは、破産手続開始決定後に新たに取得した財産です。典型例は、開始決定後に働いて得た給料です。自己破産は生活再建の制度でもあるため、開始決定後の収入は、原則として破産者の生活のために使える財産として扱われます。
ただし、開始決定前に発生していた給料や退職金、開始前の原因に基づく保険金請求権などは、開始決定後に入金されたとしても扱いが単純ではありません。入金日だけで判断せず、いつ発生した権利なのかを確認する必要があります。
自己破産で残せる財産の基本
自己破産で残せる財産は、法律上の自由財産と、裁判所の判断で残せる可能性がある財産に分けて考えます。
99万円以下の現金
破産法では、民事執行法上の差押禁止金銭の額に2分の3を乗じた金額の現金は、破産財団に属しないとされています。現在、民事執行法施行令で定める金額は66万円であるため、99万円以下の現金が一つの重要な基準になります。
ただし、ここでいう99万円は、基本的には「現金」の話です。銀行口座の預貯金まで当然に99万円まで残せるという意味ではありません。預金については、裁判所の運用や自由財産拡張の可否を確認する必要があります。現金・預金の詳しい違いは、自己破産で現金・預金はいくら残せるかで詳しく解説しています。
生活に欠くことができない家財道具
衣服、寝具、家具、台所用品など、生活に欠くことができない動産は、差押禁止動産として保護されます。民事執行法でも、生活に必要な一定の動産は差し押さえてはならないものとされています。
そのため、通常の冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テレビ、ベッド、衣類などの一般的な家財が、自己破産だけを理由に一つ残らず処分されるわけではありません。もっとも、宝石、ブランド品、高額な美術品、複数台の高価な家電などは、財産価値や必要性によって別途確認されることがあります。
破産手続開始決定後の給料など
破産手続開始決定後に発生する給料は、原則として新得財産として扱われます。そのため、自己破産をしたら給料がすべて没収されるわけではありません。
ただし、すでに給与差押えを受けている場合や、開始決定前に発生した未払給与、ボーナス、退職金がある場合は、別の整理が必要です。給料・ボーナスの詳しい扱いは、自己破産で給料は差し押さえられるかを確認してください。
自由財産の拡張が認められた財産
法律上当然に自由財産とされるもの以外でも、生活再建に必要性がある財産については、裁判所に自由財産の範囲を広げてもらえる場合があります。これを自由財産の拡張といいます。
たとえば、通勤や通院に必要な車、生活費の支払いに必要な預金、健康状態や年齢から維持の必要性が高い生命保険などは、事情によって自由財産拡張を検討することがあります。ただし、自由財産拡張は当然に認められるものではなく、金額、必要性、代替手段、債権者への影響、裁判所運用を踏まえて判断されます。
自己破産で処分対象になりやすい財産
次のような財産は、金額や状況によって破産財団に組み入れられ、処分・換価の対象になることがあります。
- 持ち家・土地:住宅ローンや抵当権の有無、オーバーローンかどうか、売却可能性を確認します。
- 車・バイク:ローンの有無、所有権留保、車検証上の名義、査定額、生活上の必要性を確認します。
- 預貯金:現金とは別に扱われ、残高、口座凍結、借入先銀行の相殺、自由財産拡張を確認します。
- 生命保険・学資保険:契約者、解約返戻金、契約者貸付、名義変更の有無を確認します。
- 退職金見込額:在職中、退職間近、退職済み、受領済みで評価が変わります。
- 投資商品・暗号資産:株式、投資信託、FX口座、暗号資産は時価評価や取引履歴が問題になります。
- 相続財産:相続開始時期と破産手続開始決定の前後関係で扱いが変わります。
これらの財産があるからといって、必ず自己破産できないわけではありません。重要なのは、財産の内容を正確に申告し、同時廃止で進められるのか、管財事件として調査・換価が必要なのかを見極めることです。
財産別の残せる可能性と確認ポイント
財産ごとの大まかな整理は、次の表を参考にしてください。実際の扱いは、申立先の裁判所、財産の金額、ローンの有無、生活上の必要性によって変わります。
| 財産の種類 | 残せる可能性 | 処分対象になりやすい場面 | 詳しい解説 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 99万円以下は自由財産として残せるのが基本です。 | 99万円を超える現金がある場合は、超過部分が問題になります。 | 現金・預金の扱い |
| 預貯金 | 少額又は生活費として必要な場合は、自由財産拡張を検討します。 | 一定額を超える残高、借入先銀行の相殺、直前の不自然な引出しがある場合です。 | 現金・預金の扱い |
| 車 | ローンがなく価値が低い場合や、通勤・通院に不可欠な場合は残せる余地があります。 | ローン中、所有権留保あり、高価な車、直前の名義変更がある場合です。 | 車を残せる条件 |
| 持ち家 | 通常は売却・競売・任意売却の対象になりやすい財産です。 | 住宅ローンあり、担保価値あり、アンダーローンの場合は特に問題になります。 | 住宅ローン・持ち家 |
| 生命保険・学資保険 | 解約返戻金が少ない場合や保障の必要性が高い場合は残せる余地があります。 | 解約返戻金が高額、契約者貸付、申立前の名義変更がある場合です。 | 生命保険・学資保険 |
| 年金・iDeCo | 公的年金や一定の企業年金・確定拠出年金は保護されることがあります。 | 振込後の預金、個人年金保険、税滞納がある場合は別途確認が必要です。 | 年金・iDeCo |
| 退職金 | 在職中の退職金見込額は、将来性や差押禁止部分を考慮して一部評価されることがあります。 | 退職間近、退職済み、すでに受領済みの場合は評価額が大きくなりやすいです。 | 退職金の評価 |
| 相続財産 | 開始決定後の相続などは、新得財産として扱われる場面があります。 | 開始決定前に相続が発生している場合や、偏った遺産分割をした場合です。 | 相続放棄・遺産分割 |
同時廃止と管財事件は財産の有無で変わることがある
自己破産の手続には、大きく分けて同時廃止と管財事件があります。財産が少なく、換価や詳しい調査が不要と判断される場合は、同時廃止で進むことがあります。反対に、換価できる財産がある場合や、財産調査・免責調査が必要な場合は、管財事件になることがあります。
同時廃止と管財事件のどちらになるかは、申立人が自由に選べるものではなく、裁判所が事案を見て判断します。財産が少ないと思っていても、保険、退職金、過払い金、車、相続財産、家族名義財産、個人事業の資産などがあると、調査のために管財事件になることがあります。
手続の分岐を詳しく知りたい場合は、自己破産の同時廃止と自己破産の管財事件を確認してください。管財事件になると、破産管財人の調査対応や予納金が必要になることがあります。
名義が家族なら安全とは限らない
財産の名義が家族になっていれば、必ず自己破産の対象外になるわけではありません。もちろん、家族が自分のお金で購入し、家族が管理・使用している財産は、通常は本人の財産ではありません。
しかし、本人が購入代金を出した財産を家族名義にしている場合、本人が実質的に管理している場合、破産直前に名義変更した場合、家族口座へ不自然に資金移動した場合は、破産管財人から実質的な所有関係を調査される可能性があります。
「家族名義に変えれば残せる」「現金を家族に預ければよい」といった対応は危険です。財産隠しや偏頗弁済を疑われ、免責不許可、否認、管財事件化につながることがあります。
車の所有権留保については、登録名義や保証人の代位弁済が問題になることがあります。最高裁平成29年12月7日判決は、自動車について販売会社を所有者とする登録がある事案で、保証人が留保所有権を別除権として行使できると判断しました。車を残せるかは、単に「誰が乗っているか」だけでなく、登録、契約、ローン、保証関係まで確認する必要があります。
財産目録には少額でも漏れなく記載する
自己破産では、財産目録に財産を記載して裁判所へ提出します。財産目録は、処分される財産だけを書く書類ではありません。処分されない可能性が高い財産でも、裁判所や破産管財人が判断できるように、原則として正確に申告する必要があります。
特に漏れやすい財産は、次のようなものです。
- ネット銀行、証券口座、暗号資産取引所の口座
- 勤務先の退職金見込額、社内積立金、財形貯蓄
- 生命保険、医療保険、学資保険、個人年金保険
- 過払い金、貸付金、売掛金、未収報酬
- スマートフォン決済、電子マネー、ポイント残高
- 相続財産、未分割遺産、相続放棄を検討している財産
- 家族名義だが本人が購入・管理している可能性がある財産
財産目録の記載に不安がある場合は、少額だから省略するのではなく、弁護士に資料を見せて申告の要否を確認しましょう。漏れが後から見つかった場合でも、早めに訂正して説明すれば、財産隠しと評価されるリスクを下げられることがあります。
財産を残したいときの正しい対応
財産を残したい場合でも、名義変更、現金化、親族への贈与、特定のローンだけの一括返済といった自己判断は避けるべきです。正しい対応は、残したい理由、必要性、評価額、代替手段を整理し、裁判所や破産管財人に説明できる形にすることです。
自由財産拡張を検討する
車、預金、保険などを生活再建のために残す必要がある場合は、自由財産拡張を検討します。たとえば、通勤に車が必要、持病があり保険を失うと再加入が難しい、家賃や生活費の支払いのために一定の預金が必要といった事情は、資料とともに説明することが重要です。
解約返戻金相当額の組入れを検討する
生命保険などでは、保険を解約せずに、解約返戻金相当額を破産財団に組み入れることで契約を残す方法が検討されることがあります。もっとも、誰が資金を出すか、返済義務の有無、他の債権者との公平を害しないかを確認する必要があります。
親族援助は資金の流れを明確にする
親族の援助で車や保険を残す場合でも、親族への偏った返済、名義移転、資金の出どころが不明な送金は問題になります。援助を受ける場合は、贈与なのか貸付けなのか、誰が何のために支払うのかを明確にし、事前に弁護士へ相談してください。
財産隠しをすると自己破産の失敗につながる
自己破産で最も避けるべき対応の一つが、財産隠しです。財産を隠す、壊す、安く売る、家族名義に変える、通帳や資料を出さない、暗号資産や保険を申告しないといった行為は、免責不許可事由や詐欺破産罪の問題につながることがあります。
財産隠しは、実際には発覚しやすい行為です。通帳の入出金、給与明細、保険料の引落し、車検証、固定資産税、証券会社・暗号資産取引所の履歴、家族口座への送金などから、財産の存在や移動が分かることがあります。
財産があること自体よりも、隠したこと、説明しなかったこと、資料を出さなかったことの方が大きな問題になる場合があります。財産隠しや債権者漏れのリスクは、自己破産で財産隠し・債権者漏れをするとどうなるかで詳しく解説しています。
裁判例から見る財産評価の注意点
自己破産の財産評価では、見た目の名義や入金時期だけでなく、法律上どのような権利があるのかが問題になります。
たとえば、最高裁平成28年4月28日判決は、破産手続開始前に成立した生命保険契約に基づく死亡保険金請求権について、破産手続開始前の原因に基づく将来の請求権として破産財団に属すると判断しました。保険金や解約返戻金は、「まだ受け取っていないから関係ない」と単純にはいえません。
また、自動車の所有権留保や保証人の代位弁済が絡む事案では、誰が登録上の所有者か、ローン契約の内容はどうなっているか、破産手続開始時点でどの権利が対抗できる状態だったかが問題になります。車や保険は、金額だけでなく契約書・証券・登録資料を確認することが重要です。
自己破産の財産についてよくある質問
家財道具やスマートフォンも処分されますか?
通常の生活に必要な家財道具が、自己破産だけで一律に処分されるわけではありません。スマートフォンも、通常の生活や仕事に必要な範囲であれば問題になりにくいことが多いです。ただし、高額端末を分割払い中の場合や、複数台を所有している場合は、契約関係や価値を確認する必要があります。
預金を現金で引き出せば99万円まで残せますか?
自己判断で預金を引き出して現金化するのは危険です。99万円の基準は現金に関する重要な基準ですが、申立直前の不自然な引出しは、使途不明金や財産隠しを疑われる原因になります。生活費として必要な引出しであっても、領収書や家計簿で説明できるようにしましょう。
車がないと通勤できない場合でも処分されますか?
通勤、通院、家族の介護などに車が必要な場合は、自由財産拡張を検討できることがあります。ただし、ローン中で所有権留保がある場合、高価な車の場合、代替交通手段がある場合は、残せるとは限りません。詳しくは自己破産すると車はどうなるかを確認してください。
生命保険は必ず解約されますか?
掛け捨て保険のように解約返戻金がない場合は、財産価値の問題は小さくなります。一方、貯蓄型保険や学資保険で解約返戻金がある場合は、その金額が問題になります。健康状態、年齢、保障の必要性、解約返戻金の金額によって、自由財産拡張や解約返戻金相当額の組入れを検討することがあります。
退職金証明書を会社に頼むと自己破産がばれますか?
退職金証明書の取得方法によっては、勤務先に事情を説明せざるを得ないことがあります。ただし、就業規則や退職金規程、社内システム、退職金計算表などで代替できる場合もあります。勤務先への影響が不安な場合は、自己破産で退職金はどうなるかと自己破産は会社にばれるかを確認してください。
財産があると自己破産できませんか?
財産があるからといって、自己破産できないわけではありません。財産がある場合は、管財事件として調査・換価・配当を行ったうえで、免責を目指すことがあります。問題は、財産の有無そのものより、支払不能か、財産を正しく申告しているか、免責不許可事由がないかです。
まとめ
自己破産では、すべての財産を失うわけではありません。99万円以下の現金、生活に必要な家財、開始決定後に取得した給料など、生活再建のために残せる財産があります。
一方で、預金、車、持ち家、保険、退職金、相続財産、投資商品などは、金額や契約内容によって処分対象になることがあります。処分されるかどうかは、名義だけでなく、実質所有、開始決定の時期、自由財産拡張の可否、裁判所運用によって変わります。
- 自己破産でも自由財産は手元に残せる
- 99万円以下の現金と預貯金は同じ扱いではない
- 車、家、保険、退職金は個別資料で評価する
- 財産がある場合でも管財事件として免責を目指せることがある
- 財産隠しや直前の名義変更をせず、早めに弁護士へ相談する
坂尾陽弁護士
関連記事
自己破産で財産がどう扱われるかを具体的に確認したい場合は、次の記事も参考になります。
