自己破産をしても、手元のお金をすべて失うわけではありません。法律上、99万円以下の現金は自由財産として残せるのが原則です。ただし、ここでいう「現金」と、銀行口座に入っている「預金・貯金」は同じ扱いではありません。
預金は、銀行に対する預金返還請求権という財産として扱われます。裁判所の運用では少額の預金を残せることもありますが、「預金も99万円までなら必ず残せる」と考えるのは危険です。また、借入先と同じ銀行の口座は、受任通知や破産手続をきっかけに凍結され、預金と借金が相殺されることがあります。
- 99万円の基準は、原則として手元現金についての基準
- 預金・貯金は現金とは別に扱われ、裁判所運用や自由財産拡張が問題になる
- 借入先の銀行口座は凍結・相殺に注意が必要
- 給与口座・年金口座・公共料金引落口座は早めに整理する
- 申立前の多額の引き出し、現金化、タンス預金隠しは自己判断でしない
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

自己破産で現金・預金はいくら残せる?まず結論
自己破産で手元に残せるお金を考えるときは、まず「現金」と「預金・貯金」を分けて考える必要があります。現金は紙幣や硬貨として手元にあるお金です。預金・貯金は、金融機関に対して払い戻しを求める権利です。
破産法は、破産手続開始時に破産者が持っている財産を破産財団に属するものとしつつ、一定の自由財産を破産財団から外しています。その代表が99万円以下の現金です。一方で、預金は当然に99万円まで自由財産になるわけではなく、裁判所の運用、残高、生活上の必要性、自由財産拡張の可否によって扱いが変わります。
| 財産の種類 | 基本的な扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 手元現金 | 99万円以下であれば、法律上の自由財産として残せるのが原則 | タンス預金も現金として申告が必要。隠すと重大なリスクがある |
| 普通預金・通常貯金 | 預金債権として扱われ、99万円基準がそのまま適用されるわけではない | 複数口座の合計残高、入出金履歴、給与入金の時期を確認する |
| 借入先の銀行口座 | 受任通知や破産手続をきっかけに凍結・相殺されることがある | 給与口座・年金口座・公共料金引落口座の場合は特に準備が必要 |
| 電子マネー・コード決済残高 | 現金ではなく、財産的価値のある残高として説明を求められることがある | アカウント残高、チャージ履歴、利用履歴を確認する |
| 証券口座・暗号資産口座 | 投資商品・暗号資産として別に評価される | 現金や預金ではなく、評価額・取引履歴の提出が問題になる |
「お金」とひとまとめに見えても、破産手続では、現金、預金、給与、年金、電子マネー、証券口座、暗号資産などを分けて確認します。通帳やアプリ残高を隠さず、最初から一覧化しておくことが大切です。
99万円以下の現金を残せる理由
自己破産で99万円以下の現金を残せるのは、破産者の生活再建を守るためです。破産手続は、債権者への公平な配当を目的としますが、破産者の生活に必要な最低限の財産まで取り上げる制度ではありません。
民事執行法は、標準的な世帯の2か月間の必要生計費を考慮して政令で定める額の金銭を差押禁止動産としています。この額は民事執行法施行令で66万円とされており、破産法はその2分の3を乗じた額、つまり99万円を破産財団に属しない金銭としています。
そのため、破産手続開始時に手元現金が99万円以下であれば、原則として破産財団に組み入れられず、生活費、転居費、当面の医療費、子どもの費用などに使うことができます。
99万円は「現金」の基準であり、預金の全国一律基準ではない
注意すべき点は、99万円という数字が、預金・貯金にそのまま当てはまるわけではないことです。銀行口座に残っている預金は、手元の紙幣・硬貨ではなく、金融機関に対する払戻請求権です。そのため、法律上当然に99万円まで残せると説明するのは正確ではありません。
実務上、預金も生活費として必要な場合には自由財産拡張の対象になることがあります。しかし、それは「預金だから99万円まで自動的に残る」という意味ではなく、裁判所の運用や個別事情を踏まえて判断されます。
タンス預金・へそくりも申告が必要
現金を自宅に保管している場合も、自己破産では財産として申告が必要です。タンス預金、封筒に分けた生活費、家族に預けた自分のお金、現金で保管している売上や副業収入も、本人の財産であれば説明対象になります。
「現金なら分からない」と考えて申告しないと、財産隠しを疑われ、免責不許可、管財事件化、調査長期化につながるおそれがあります。財産隠しのリスクは、自己破産で財産隠し・債権者漏れをするとどうなるかでも詳しく解説しています。
預金・貯金はいくらまで残せるか
預金・貯金については、99万円以下なら当然に残せるという全国一律の法定基準はありません。多くの裁判所では、預貯金の合計額が少額であれば換価しない、又は自由財産拡張により残すという運用がありますが、具体的な基準や判断方法は管轄裁判所や事件類型によって異なります。
一般に、預貯金では20万円という目安が説明されることがあります。ただし、これは法律上「全国どこでも預金20万円まで必ず残せる」という意味ではありません。複数口座を持っている場合は、1つの口座ごとではなく、すべての口座の合計残高で確認されることが多い点にも注意が必要です。
| 預金の状態 | 確認されやすい点 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 残高が少額 | 複数口座の合計、直近の入出金、給与入金の有無 | 通帳・取引明細を提出し、生活費として必要な事情を説明する |
| 残高が20万円を超える | 自由財産拡張の可否、管財事件化、財団組入れの要否 | 使途を自己判断せず、弁護士と裁判所運用を確認する |
| 給料・年金が入金された直後 | いつ発生した給料・年金か、生活費として必要か | 給与明細、年金通知、家計収支表で説明する |
| 申立前に大きな出金がある | 何に使ったか、現金で保管しているか、誰に支払ったか | 領収書、振込明細、家計簿、現金残高を整理する |
| ネット銀行・休眠口座がある | 残高、取引履歴、ログインできるか | アプリ画面や取引明細を取得し、口座漏れを防ぐ |
預金は開始決定時の残高だけでなく、入出金履歴も見られる
自己破産では、ある1日の残高だけを見て終わりではありません。申立前の一定期間について、給与、年金、児童手当、売上、副業収入、保険金、親族からの援助、投資商品の売却代金、大きな出金などが確認されます。
残高が少なくても、直前に大きな引き出しがあれば、現金として残っているのか、生活費に使ったのか、特定の債権者へ返済したのかを説明する必要があります。説明できない出金は、財産隠しや偏頗弁済の疑いにつながります。
自由財産拡張で預金を残せることがある
預金が一定額を超える場合でも、直ちに全額を失うとは限りません。破産法には、裁判所が破産者の生活状況、財産の種類・額、収入の見込みなどを考慮して、自由財産の範囲を拡張できる制度があります。
たとえば、当面の家賃、転居費、医療費、子どもの学費、通勤費、扶養家族の生活費などとして預金が必要な場合、資料をそろえて説明することで、残せる余地を検討できることがあります。自由財産全体の考え方は、自己破産で残せる財産・失う財産も参考にしてください。
銀行口座は凍結される?相殺と給与口座の注意点
自己破産を検討するときに特に注意すべきなのが、銀行口座の凍結です。すべての口座が必ず凍結されるわけではありません。凍結されやすいのは、借入先である銀行の口座です。
たとえば、A銀行にカードローンや住宅ローンの借入れがあり、同じA銀行に普通預金口座を持っている場合、弁護士の受任通知や破産手続をきっかけに、A銀行が口座を凍結することがあります。凍結されると、出金、引落し、振替、デビット決済などができなくなることがあります。
口座凍結は相殺のために行われることがある
銀行が口座を凍結する大きな理由の1つは、預金と借金を相殺するためです。銀行は、預金者に対して預金を払い戻す義務を負う一方で、借入金について債権者でもあります。そこで、一定の範囲で預金と借金を差し引いて回収することがあります。
口座残高が借金より少ない場合、残高全額が相殺されることがあります。口座残高が借金より多い場合は、借金額と相殺された後の残額が戻ることもあります。ただし、実際の処理、凍結期間、解除方法、強制解約の有無は金融機関や保証会社の対応によって異なります。
借入れのない銀行口座は凍結されないことが多い
銀行から借入れがない口座は、自己破産をするだけで当然に凍結されるわけではありません。消費者金融やクレジットカード会社だけが債権者で、取引銀行から借入れがない場合、通常は銀行口座そのものが凍結されるリスクは高くありません。
もっとも、口座が凍結されない場合でも、通帳や取引明細の提出は必要です。破産手続では、どの口座にどのような入出金があるかを確認するため、ネット銀行、休眠口座、家計用口座、給与口座、子ども名義と混同している口座なども整理しておく必要があります。
給与口座・年金口座・公共料金引落口座は早めに確認する
借入先の銀行口座を給与振込先にしている場合、凍結によって給与が引き出せなくなると、生活費や家賃の支払いに支障が出ることがあります。年金受給者の場合も、年金振込口座が凍結されると生活に直結します。
また、家賃、電気、ガス、水道、携帯電話、保険料、学校関係費などを凍結リスクのある口座から自動引落しにしていると、引落し不能による滞納が発生することがあります。受任通知を送る前に、給与振込先や引落口座の変更が必要かを弁護士と確認しましょう。
給与振込先や引落口座の変更は、生活を守るために必要な準備として検討されます。一方で、預金を多額に引き出して隠す、特定の借入だけ返す、親族へ移す行為は危険です。準備と財産隠しは別物です。
自己破産前に預金を引き出して現金化してよいか
口座凍結や相殺が不安になると、預金をすべて引き出して現金で持っておきたいと考える方がいます。しかし、自己破産前の現金化は、目的、金額、時期、使途、説明資料によって評価が大きく変わります。
生活費、家賃、食費、医療費、通勤費、申立費用、弁護士費用など、必要性があり、使途を説明できる支出であれば、直ちに問題になるとは限りません。一方で、口座凍結を避けるために多額を引き出し、その後の使途や保管場所を説明できない場合は、財産隠しを疑われます。
引き出したお金は「消えた」のではなく、説明対象になる
預金を引き出しても、そのお金が破産手続上なくなるわけではありません。手元に残っていれば現金として申告します。生活費に使ったのであれば、何に使ったかを家計収支表、領収書、レシート、振込明細などで説明します。誰かに支払ったのであれば、支払先、支払理由、債権者かどうかを確認します。
特に、家族や友人、勤務先、車ローン、スマホ代、家賃など、一部の債権者だけに返済すると、偏頗弁済として問題になることがあります。偏頗弁済の詳しい注意点は、自己破産前の偏頗弁済とは何かで確認してください。
受任通知後の支払・返済は慎重に扱う
弁護士が債権者へ受任通知を送ると、債務整理に入ったことが外部に示されます。最高裁平成24年10月19日判決でも、個人の債務整理開始通知が破産法上の支払停止に当たると判断された事案があります。受任通知の後に特定の債権者へ返済すると、否認や免責の問題が生じる可能性があります。
そのため、受任通知後は、どの支払いを続けてよいか、止めるべきか、生活費として支払うべきものかを個別に整理する必要があります。自己判断で「この支払いだけは止めたくない」と動く前に、弁護士へ確認してください。
現金・預金を残すために準備すべき資料
現金や預金をめぐるトラブルを避けるには、財産を隠すことではなく、資料で説明できるようにすることが重要です。裁判所や破産管財人は、通帳残高だけでなく、入出金の流れ、生活費の必要性、財産の移動先を確認します。
- すべての銀行口座を一覧にする:普通預金、ゆうちょ銀行、ネット銀行、休眠口座、給与口座、家計口座を漏れなく整理します。
- 通帳・取引明細を取得する:未記帳分、アプリ明細、ネット銀行のPDF明細も含め、指定期間分を準備します。
- 大きな入出金の理由をメモする:給料、賞与、児童手当、保険金、親族援助、現金引出し、振込支払いの理由を説明できるようにします。
- 現金残高を正直に申告する:財布、自宅保管、封筒分け、家族に預けた本人資金を含め、開始時点でいくらあるかを確認します。
- 給与・年金・引落し口座を見直す:借入先銀行の口座を利用している場合は、振込先や引落し方法の変更を検討します。
必要書類全体の準備は、自己破産の必要書類一覧、家計収支の整理は自己破産の家計簿の書き方も参考にしてください。
電子マネー・ポイント・アプリ残高も確認する
近年は、現金や銀行預金だけでなく、電子マネー、交通系IC、コード決済、プリペイド残高、デビットカード、証券アプリ、暗号資産口座などを使っている方も多くなっています。金額が小さい場合でも、残高や利用履歴を確認し、必要に応じて申告・説明できるようにしましょう。
特に、破産申立て直前にクレジットカードでチャージしたり、後払い決済を利用したりすると、借金を増やした上で財産的価値を移したように見えることがあります。利用履歴を隠さず、早めに弁護士へ共有してください。
現金・預金に関するよくある誤解
預金も99万円までなら残せますか?
預金について、99万円まで当然に残せるとはいえません。99万円の基準は、原則として手元現金についての基準です。預金は預金債権として扱われ、少額基準や自由財産拡張の対象になることはありますが、管轄裁判所や事情によって判断が変わります。
口座凍結を避けるため、全額引き出してもよいですか?
全額引き出しは自己判断で行うべきではありません。生活費や申立費用の確保として必要な範囲であっても、金額、使途、領収書、現金残高の説明が必要です。多額の出金や使途不明金は、財産隠しを疑われる原因になります。
借入れのない銀行口座も凍結されますか?
借入れのない銀行口座は、自己破産をするだけで当然に凍結されるわけではありません。凍結リスクが高いのは、借入先と同じ銀行の口座です。ただし、借入れがない口座でも、破産手続では通帳・取引明細の提出が必要です。
自己破産後に新しい銀行口座は作れますか?
自己破産をしただけで、銀行口座の新規開設が法律上当然に禁止されるわけではありません。ただし、金融機関の審査や本人確認、既存取引状況によって対応が異なることがあります。破産後の口座利用は、自己破産後も銀行口座は使えるかで詳しく解説しています。
開始決定後に入った給料は取られますか?
破産手続開始決定後に働いて得た給料は、原則として新得財産として本人が使える方向で扱われます。ただし、開始前に発生していた未払給与や賞与、凍結口座への入金、差押えが絡む場合は整理が必要です。給料・ボーナスの扱いは、自己破産で給料は差し押さえられるかも参考にしてください。
家族名義の口座に自分のお金を入れていれば安全ですか?
安全とはいえません。名義が家族でも、実質的に本人のお金であれば説明を求められます。申立前に自分の預金を家族名義口座へ移すと、財産隠しや不当な財産移転を疑われる可能性があります。家族のお金と本人のお金が混ざっている場合は、資金の出どころを整理しましょう。
まとめ
自己破産で残せるお金を考えるときは、現金と預金を分けて整理することが重要です。99万円以下の現金は自由財産として残せるのが原則ですが、預金・貯金に99万円基準がそのまま当てはまるわけではありません。預金は、裁判所の運用、残高、生活上の必要性、自由財産拡張の可否によって扱いが変わります。
また、借入先銀行の口座は、受任通知や破産手続をきっかけに凍結・相殺されることがあります。給与口座、年金口座、公共料金引落口座を利用している場合は、生活への影響を避けるため、早めに振込先や引落方法を確認しましょう。
- 99万円基準は、原則として手元現金についての基準
- 預金は現金とは別に扱われ、複数口座の合計残高や運用が問題になる
- 借入先銀行の口座は凍結・相殺に注意する
- 預金の引き出し・現金化・家族口座への移動は自己判断でしない
- 通帳、取引明細、家計収支、現金残高を整理して弁護士に相談する
坂尾陽弁護士
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