自己破産前の偏頗弁済とは?家族・友人・車ローンだけ返すリスク

自己破産を考え始めると、「家族や友人にだけは先に返したい」「車を残したいから車ローンだけ払いたい」「スマホや家賃だけは止めたくない」と考えることがあります。しかし、支払えない状態になった後に特定の債権者だけへ返済すると、偏頗弁済として問題になる可能性があります

偏頗弁済が問題になるのは、自己破産がすべての債権者を公平に扱う手続だからです。金融業者には返さない一方で、親族、友人、勤務先、車ローン会社、携帯会社など一部だけに支払うと、破産管財人による返還請求、管財事件化、免責不許可事由としての調査につながることがあります。

もっとも、自己破産前後の支払いがすべて禁止されるわけではありません。税金、現在家賃、公共料金、生活に必要な通常支出、第三者自身のお金による弁済などは、事情により扱いが異なります。この記事では、自己破産前の偏頗弁済について、家族・友人・車ローンだけ返すリスク、受任通知後の返済、第三者弁済、既に返してしまった場合の対処法を整理します。

  • 偏頗弁済とは、支払不能後などに特定の債権者だけを有利に扱う返済・担保提供です。
  • 家族・友人・保証人に迷惑をかけたくないという理由でも、本人のお金で一部だけ返すと問題になり得ます。
  • 受任通知後の返済は、支払停止後の返済として特に慎重に見られます。
  • 車ローン、スマホ代、滞納家賃なども、残したい物や契約だけを守る目的で支払うと危険です。
  • 既に支払った場合は、隠さず、返済日・金額・原資・相手・理由を整理して弁護士へ伝えることが重要です。

坂尾陽弁護士

偏頗弁済は、悪意がある人だけの問題ではありません。「迷惑をかけたくない」「生活に必要だから」という気持ちで行った返済が、かえって家族や友人への返還請求や免責リスクにつながることがあります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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自己破産前の偏頗弁済とは何か

偏頗弁済とは、簡単にいうと、債務者が支払えない状態になっているにもかかわらず、特定の債権者だけに返済して、その債権者だけを有利に扱うことです。「偏頗」は、かたよって公平でないという意味です。

自己破産では、債権者は原則として破産手続の中で平等に扱われます。破産者の財産は、生活に必要な自由財産などを除き、債権者全体のために配当されます。そのため、破産直前に一部の債権者だけが満足を受けると、他の債権者の公平を害することになります。

法律上は、破産法162条などの否認対象になる偏頗行為と、破産法252条1項3号の免責不許可事由として問題になる行為を分けて考えます。日常的にはまとめて「偏頗弁済」と呼ばれますが、実際には、次のように複数の問題が重なります。

問題 意味 起こり得る結果
否認 破産管財人が、偏った返済を受けた相手から金銭を取り戻す制度です。 返済を受けた家族・友人・会社などが返還を求められる可能性があります。
免責不許可事由 特定の債権者に特別の利益を与える目的などがある場合に、免責判断で不利になる事情です。 管財事件化、免責調査、裁量免責の検討、不許可リスクにつながります。
債権者漏れ・虚偽説明 返済した事実や相手を隠し、債権者一覧表や財産資料に正しく出さない問題です。 偏頗弁済そのものより、隠したことが重く見られる場合があります。

偏頗弁済をしたからといって、必ず免責不許可になるわけではありません。金額、時期、相手、原資、破産手続への影響、隠していたかどうか、返還や説明に協力したかなどで結論は変わります。免責不許可事由全体については、自己破産の免責不許可事由とは?11類型・裁量免責・不許可時の対応で詳しく解説しています。

MEMO

「偏頗弁済に当たる可能性がある」と「必ず免責されない」は同じ意味ではありません。ただし、自己判断で隠したり、追加で返済したりすると、問題が大きくなります。


いつから返済が危険になるのか

偏頗弁済は、単に「破産申立ての前に返済したかどうか」だけで決まるわけではありません。重要なのは、返済時に支払不能や支払停止などの危機状態があったか、特定の債権者だけを有利に扱ったか、相手方がその事情を知っていたかなどです。

支払不能になった後の返済は特に危険

支払不能とは、収入や財産、借金総額、支払時期などから見て、一般的・継続的に借金を支払えない状態をいいます。すでに返済のために借入れを繰り返している、毎月の返済が給与を大きく超えている、滞納や督促が続いている、弁護士へ自己破産を相談して返済停止を検討している、といった事情がある場合は注意が必要です。

「まだ破産申立てをしていないから大丈夫」とは限りません。申立前でも、支払不能になった後の特定債権者への返済は、否認や免責不許可事由として問題になる可能性があります。

受任通知後の返済は原則として止める

弁護士に債務整理を依頼すると、通常、債権者へ受任通知を送ります。受任通知後は、債権者から本人への直接取立てが止まり、各債権者への返済も停止して、負債・財産・家計を整理します。

最高裁平成24年10月19日判決は、弁護士が債権者一般に債務整理開始通知を送った行為について、破産法162条にいう支払停止に当たると判断した事例です。個人の自己破産では、受任通知後の返済は「支払停止後の特定債権者への返済」と見られやすくなります。

したがって、受任通知後に「親だけ」「友人だけ」「車ローンだけ」「スマホ代だけ」と支払うことは、特に避けるべきです。どうしても支払う必要があると思う支出がある場合は、支払う前に弁護士へ確認しましょう。

弁済期が来ている返済でも安全とは限らない

毎月の約定返済日が来ている返済でも、破産手続との関係では問題になることがあります。偏頗弁済の判断では、「期限が来ていたか」だけでなく、支払不能後か、他の債権者との公平を害するか、通常の支払方法か、一部債権者を特別に助ける目的があるかが見られます。

たとえば、貸金業者への支払いを全部止めているのに、親族への借金だけ毎月返し続ける、車を残すために自動車ローンだけ支払い続ける、保証人に請求が行かないよう保証付き債務だけ返す、といった行為は危険です。


家族・友人・勤務先だけ返すリスク

自己破産で最も多い偏頗弁済の相談は、家族・友人・勤務先など、今後の人間関係に影響しやすい相手だけに返してしまったケースです。気持ちは理解できますが、破産手続では、親しい相手も法律上は債権者として扱われます。

家族や友人への返済

家族や友人から借りたお金も、返済義務があるなら債務です。金融業者には返さず、家族や友人にだけ返すと、その人たちだけが有利になります。後に破産管財人が選任された場合、返済を受けた家族や友人に対して、返還交渉や返還請求が行われることがあります。

特に、通帳からまとまった現金を引き出して家族へ渡した、受任通知後に親へ返した、返済したのに債権者一覧表へ家族を載せなかった、返済の証拠を残していない、という場合は、偏頗弁済だけでなく財産隠し・債権者漏れの疑いも生じます。

勤務先・社内貸付への返済

勤務先からの借入れ、社内貸付、給与前借りなども注意が必要です。勤務先に知られたくないからといって社内貸付だけ返すと、特定債権者への返済として問題になる可能性があります。給与から天引きされている場合も、契約内容、法的根拠、本人の関与、破産申立て時期によって確認が必要です。

勤務先への影響が不安な場合は、返済を続けるよりも、自己破産が会社に知られる場面や給与・社内貸付の扱いを先に整理することが大切です。勤務先への影響は、自己破産は会社にばれる?勤務先への通知・解雇・給料・就職への影響で詳しく解説しています。

保証人に迷惑をかけたくない返済

保証人や連帯保証人に請求が行くことを避けるため、保証付きの借金だけ先に返したいと考えることもあります。しかし、本人のお金で保証付き債務だけ返すと、他の債権者との公平を害する可能性があります。

主債務者が自己破産しても、保証人や連帯保証人の責任は当然には消えません。保証人に請求が行く可能性がある場合は、先に返済して隠すのではなく、保証人への説明、保証人側の分割交渉・債務整理、求償権の扱いを整理します。保証人への影響は、自己破産すると保証人・連帯保証人はどうなる?請求・一括返済・対処法も参考にしてください。

注意

家族や友人に返すことは、相手を守るつもりでも、後で破産管財人から返還を求められて、かえって相手に迷惑をかける場合があります。


車ローン・スマホ・家賃など「残したいもの」だけ払うリスク

自己破産では、生活に必要な契約や物を残したいという理由で、一部の支払いを続けたくなることがあります。しかし、支払先が破産債権者である場合、本人のお金でその支払いだけ続けると偏頗弁済になる可能性があります。

支払いたいもの 問題になりやすい支払い 考え方
車ローン 車を残すため、ローン会社だけへ返済する。 所有権留保、車の評価、自由財産、第三者弁済の可否を確認します。
スマホ・携帯料金 未払い通信料や端末分割代だけを返す。 通信契約と端末割賦を分け、家族名義・SIM契約など代替策を検討します。
滞納家賃 過去の滞納分だけを一括で払う。 開始前滞納分と現在家賃を分けます。住み続けるための今後の家賃とは別問題です。
クレジットカード 使い続けたいカード会社だけ返す。 カード会社だけ返しても、信用情報や社内審査の問題は残ります。
知人への借金 関係を壊したくない相手だけ返す。 債権者一覧表に載せ、手続内で公平に扱う必要があります。

車ローンだけ返す場合

車を使い続けたいからといって、自動車ローンだけ支払うことは危険です。ローン会社が所有権留保を持っている場合、返済を止めると車が引き揚げられることがありますが、本人のお金でローン会社だけ返すと、他の債権者との公平を害する可能性があります。

車を残せるかどうかは、ローンの有無、所有権留保、車検証上の所有者、車の評価額、生活・仕事での必要性、自由財産拡張、家族による第三者弁済の可否などで判断します。詳しくは、自己破産すると車はどうなる?残せる条件・ローン・家族名義で解説しています。

スマホや携帯料金だけ返す場合

スマホを使えなくなるのが不安で、携帯会社への未払いだけ返したいという相談もあります。しかし、通信料や端末分割代が破産債権になる場合、本人のお金でそこだけ支払うと偏頗弁済の問題が生じます。

スマホの問題は、通信契約、端末割賦、携帯会社間の不払者情報、信用情報、同一事業者の社内審査を分けて考える必要があります。自己破産後の携帯契約については、自己破産後も携帯・スマホは使える?通信契約・端末分割・未払いを参考にしてください。

滞納家賃だけ返す場合

住み続けるためには、これから発生する家賃を支払う必要があります。他方で、破産手続開始前に発生した滞納家賃を、他の借金より優先して支払うと、偏頗弁済として問題になることがあります。

家賃では、「過去の滞納分」と「これから住み続けるための現在家賃」を分けることが重要です。家賃滞納がある場合の整理は、家賃滞納は自己破産で免責される?住み続ける条件・退去・保証会社で詳しく解説しています。


税金・現在家賃・生活費は偏頗弁済と同じに扱わない

自己破産前後の支払いを考えるときは、「すべて止める」と「払いたいものだけ払う」のどちらかで考えると誤ります。偏頗弁済として避けるべき支払いと、生活維持や法的性質から別に検討すべき支払いがあります。

税金は免責されないため別管理する

税金、国民健康保険料、年金保険料などは、自己破産で当然に免責される一般の借金とは扱いが異なります。税金は免責許可決定が確定しても原則として支払義務が残るため、分納、猶予、滞納処分への対応を別に考える必要があります。

ただし、「税金は残るから」といって、申立費用や生活費を崩して無計画に一括納付するのが常に正しいわけではありません。税金の滞納がある場合は、税務署や自治体への分納相談と、破産手続の準備を並行して整理します。詳しくは、自己破産しても税金は免除されない|滞納処分・差押え・分納と猶予をご覧ください。

現在家賃・水道光熱費・食費などは生活費として整理する

破産手続開始後や申立準備中に発生する現在家賃、電気・ガス・水道、食費、医療費、通勤費など、生活を維持するための通常支出は、過去の借金返済とは性質が異なります。これらは家計表に記載し、相当な範囲で支出することが通常です。

もっとも、過去の滞納分をまとめて支払う場合、親族への返済を生活費名目にする場合、高額な買い物や換金性の高い支出をする場合は、別の問題が生じます。生活費として自然な支出か、過去債務の返済かを分けて記録しましょう。

弁護士費用・予納金の積立ても勝手に借入れで作らない

自己破産の費用を準備するために、返済を止めて積立てを行うことがあります。これは、弁護士の管理のもとで破産申立てに必要な費用を準備するためのものです。

一方で、費用を作るために新たに借入れをする、家族や友人から借りたお金で特定債権者へ返す、費用が足りないから一部債権者だけ支払いを止める、という対応は別問題です。費用が払えない場合は、分割・積立・法テラスなどを検討します。詳しくは、自己破産の費用が払えないとき|分割・積立・法テラスと予納金を参考にしてください。


第三者弁済なら必ず安全とはいえない

本人ではなく、家族や親族など第三者が自分のお金で債権者に支払う場合、本人の財産が減るわけではないため、偏頗弁済と同じ評価にならないことがあります。たとえば、家族が自分の資金から直接ローン会社へ支払い、本人が後で返さないという形です。

しかし、第三者弁済は自己判断で進めると危険です。本人の口座から家族の口座へ送金して家族名義で支払っただけの場合、実質的には本人の財産から支払ったと見られる可能性があります。家計を同一にしている配偶者や親からの支払いも、資金の出どころが曖昧だと問題になります。

方法 リスク 確認すべきこと
本人が家族からお金を受け取り、本人が返済する 本人の財産として一度入った資金を使った返済と見られる可能性があります。 資金の出どころ、本人の口座経由の有無、後日の返還約束を確認します。
家族が自分の資金で債権者へ直接支払う 第三者弁済として扱える余地がありますが、証拠化が必要です。 家族自身の資金であること、本人が後で返さないこと、振込記録を確認します。
家族が支払い、本人が後で家族へ返す 実質的に本人が特定債権者を優遇したのと同じ問題が生じます。 後日の求償や返済約束をしないか確認します。
第三者弁済後、第三者が本人に請求する 第三者が新たな債権者になる可能性があります。 債権放棄の有無、債権者一覧表への記載を確認します。

第三者弁済を検討する場面としては、車を残したい場合、保証人への請求を調整したい場合、生活に不可欠な契約を維持したい場合などがあります。ただし、他の債権者との公平、財産調査、債権者一覧表、家計表、贈与・求償の扱いが絡むため、必ず事前に弁護士へ相談しましょう。

使途指定の借入れは例外的に否認されない場合がある

最高裁平成5年1月25日判決は、特定の債務の弁済に充てる約定で借り入れた資金による弁済について、借入金を他の用途に流用する可能性がなく、借入債務が従前の債務より重くないなどの特殊な事情のもとで、否認の対象にならないと判断しました。

もっとも、この判断はかなり限定的な事案です。「家族から借りて車ローンだけ返す」「友人から借りて親へ返す」といった一般的なケースを広く安全にするものではありません。本人が自由に使えるお金を受け取って特定債権者へ返すと、むしろ偏頗弁済として問題になりやすくなります。

破産手続開始後の自由財産からの任意弁済も厳格に見る

最高裁平成18年1月23日判決は、破産者が破産手続中に自由財産から破産債権へ任意弁済すること自体は妨げられないとしつつ、自由財産は更生と生活保障のための財産であり、任意性は厳格に見るべきだと示しています。

つまり、「自由財産だから何に使ってもよい」と単純に考えるのは危険です。破産手続中に特定債権者へ支払う必要がある場合でも、支払いの必要性、原資、相手、金額、強制の有無を弁護士や管財人と確認する必要があります。


偏頗弁済をするとどうなるか

偏頗弁済をした場合、直ちに自己破産が不可能になるわけではありません。しかし、手続の種類、費用、期間、免責判断、家族・友人への影響が変わる可能性があります。

管財事件になる可能性がある

偏頗弁済の調査や返還交渉が必要な場合、同時廃止ではなく管財事件になることがあります。管財事件では、破産管財人が選任され、通帳、家計、返済相手、返済原資、返済時期などを調査します。

管財事件になると、裁判所へ納める予納金が増えることがあります。返済額が少額で、時期や理由が明確で、隠しておらず、手続への影響が小さい場合には、裁量免責により免責されることもありますが、判断は事案ごとに異なります。

返済を受けた相手が返還を求められる可能性がある

否認の対象になると、破産管財人は、偏頗弁済を受けた相手に対して返還を求めることがあります。返済相手が親、配偶者、友人、勤務先などの場合、破産者本人だけでなく、返済を受けた側も手続に巻き込まれる可能性があります。

「家族に迷惑をかけたくない」という理由で先に返した場合でも、結果として、家族が破産管財人から連絡を受け、返金交渉に対応しなければならないことがあります。

免責判断で不利になることがある

偏頗弁済は、破産法252条1項3号の免責不許可事由として問題になることがあります。特定の債権者に特別の利益を与える目的や、他の債権者を害する目的があると見られる場合、免責許可の判断で不利になります。

ただし、免責不許可事由に当たり得る事情があっても、裁判所は、破産に至った経緯、偏頗弁済の金額・時期、返還状況、説明態度、家計改善、手続への協力などを総合して、裁量免責を認めることがあります。重要なのは、事実を隠さないことです。

隠すと財産隠し・虚偽説明の問題になる

偏頗弁済そのものよりも、返済を隠したことが重く評価される場合があります。通帳に不自然な引出しがあるのに説明しない、親族への送金を生活費と偽る、債権者一覧表から友人を外す、現金で返したため証拠がない、という場合です。

財産隠しや債権者漏れの問題は、免責判断だけでなく、手続の信頼性に関わります。詳しくは、次の記事で整理しています。自己破産で財産隠し・債権者漏れをするとどうなる?調査・訂正・罰則


既に偏頗弁済をしてしまった場合の対処法

既に家族や友人、車ローン、携帯会社、勤務先などへ支払ってしまった場合でも、すぐに諦める必要はありません。最も避けるべきなのは、追加で返済を続けることや、返済した事実を隠すことです。

返済の内容を一覧にする

まず、次の情報を整理します。通帳、振込明細、領収書、LINE、メール、契約書、借用書、返済予定表などがあれば、処分せずに保管してください。

  • 返済した相手:家族、友人、勤務先、ローン会社、携帯会社、保証会社などを正確に整理します。
  • 返済日と金額:いつ、いくら支払ったかを通帳や明細で確認します。
  • 返済原資:給与、預金引出し、退職金、保険解約金、家族からの援助、新規借入れなどを確認します。
  • 返済理由:保証人への迷惑回避、車の維持、退去回避、人間関係、督促対応などを記録します。
  • 残債務の有無:返済後も借金が残っているか、完済したかを確認します。

追加返済を止める

一度支払ってしまった後に、「ここまで払ったから最後まで返したい」と考えて追加返済を続けると、問題が拡大します。特に受任通知後や申立準備中は、弁護士の確認なしに一部債権者へ返済しないでください。

返済相手から強く求められている場合でも、「弁護士に相談中である」「今後の支払いは確認してから対応する」と説明し、支払う前に相談します。

債権者一覧表から外さない

家族や友人へ返済した場合でも、残債務があるなら債権者一覧表に記載する必要があります。完済したと思っている場合でも、利息、遅延損害金、立替金、保証債務、第三者弁済後の求償権などが残っていないか確認します。

「もう返したから載せなくてよい」と自己判断すると、債権者漏れとして問題になる可能性があります。返済の有無にかかわらず、借入れや立替えの事実は弁護士へ伝えましょう。

返還や積立てで調整できることもある

事案によっては、返済を受けた相手から任意に返還してもらう、破産財団へ相当額を組み入れる、家計を改善して裁量免責に向けた事情を整える、といった対応を検討することがあります。

ただし、返還を求める連絡の仕方や金額調整を誤ると、家族・友人との関係がさらに悪化することがあります。破産管財人が選任される可能性も踏まえ、弁護士と方針を決めてから動くことが重要です。


自己破産前に支払いを整理するときの判断基準

自己破産を検討している段階では、「どの支払いを止めるか」「どの支払いを続けるか」を早めに整理する必要があります。次の表は、一般的な整理の目安です。実際には、契約内容、滞納状況、財産、裁判所の運用により異なります。

支払いの種類 基本的な考え方 注意点
消費者金融・カードローン・クレジット債務 受任後は原則として返済を止め、債権者一覧表に記載します。 一部だけ返すと偏頗弁済になる可能性があります。
家族・友人からの借金 親しい相手でも債権者として扱います。 隠さず記載し、返済事実や残額を整理します。
車ローン 所有権留保や引揚げの有無を確認します。 車を残す目的で本人のお金から支払わないよう注意します。
現在家賃・水道光熱費 生活維持に必要な通常支出として支払うことがあります。 過去滞納分の一括返済とは分けます。
税金・保険料 免責されないため、分納や猶予を含めて別管理します。 生活費や申立費用を崩して無理に一括納付しないよう確認します。
弁護士費用・裁判所費用 申立て準備に必要な費用として積立てを行うことがあります。 費用準備のための新規借入れや不自然な資金移動は避けます。

判断に迷う支払いがある場合は、「支払先が過去の借金の債権者か」「本人のお金から支払うか」「他の債権者より有利になるか」「支払わないと生活や手続に重大な支障があるか」「証拠を残せるか」を確認します。

特に、現金引出し、家族口座への送金、親族名義への変更、車や保険の処分、退職金の受領後の返済は、偏頗弁済だけでなく財産隠し・否認の問題にもつながります。迷った時点で、支払う前に相談することが最も安全です。


まとめ

自己破産前の偏頗弁済は、家族や友人を助けたい、車やスマホを残したい、保証人に迷惑をかけたくないという気持ちから起こりやすい問題です。しかし、自己破産では債権者を公平に扱う必要があるため、特定の債権者だけに返済すると、否認、管財事件化、免責不許可事由、債権者漏れなどのリスクが生じます。

  • 支払不能後や受任通知後に、一部債権者だけへ返済しないことが重要です。
  • 家族・友人・勤務先・保証人付き債務も、原則として債権者として整理します。
  • 車ローン、スマホ、滞納家賃などは、残したい理由だけで支払い続けないよう注意します。
  • 第三者弁済や税金・現在家賃は別に検討しますが、自己判断で処理しないことが安全です。
  • 既に返してしまった場合は、返済日・金額・原資・相手を整理し、隠さず弁護士へ伝えましょう。

偏頗弁済が疑われる場合でも、早い段階で正直に説明し、資料を出し、追加返済を止めれば、手続内で調整できる可能性があります。反対に、隠したり、現金で処理したり、家族名義に移したりすると、免責判断を大きく悪化させることがあります。

坂尾陽弁護士

返済を止めることは、家族や友人を切り捨てることではありません。破産手続の中で公平に整理し、必要な説明と対応を尽くすことが、結果的に周囲への負担を小さくすることにつながります。

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偏頗弁済とあわせて確認しておきたい論点は、次の記事で詳しく解説しています。

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