損害賠償・慰謝料は自己破産で免責される?悪意・故意・重過失の判断

損害賠償や慰謝料は、自己破産をすれば必ず免責されるわけでも、必ず残るわけでもありません。結論としては、破産手続開始前の原因に基づく損害賠償・慰謝料は原則として免責対象になりますが、悪意で加えた不法行為や、故意・重大な過失による生命・身体侵害に当たる場合は非免責債権として残る可能性があります

たとえば、契約違反による損害賠償や、単なる不注意による物損事故の損害賠償は、原則として免責対象になり得ます。一方で、詐欺的な行為、横領、暴行傷害、重大な過失による人身事故などは、免責後も支払義務が残る方向で検討が必要です。

慰謝料についても同じです。不貞慰謝料や離婚慰謝料は一律に非免責になるわけではなく、行為の内容、相手を害する意図、生命・身体侵害の有無、故意・重過失の程度、判決や和解書の記載などを個別に確認します。この記事では、損害賠償・慰謝料が自己破産で免責されるか、破産法253条1項2号・3号、悪意・故意・重過失の判断、交通事故・不貞・詐欺・刑事事件の違い、訴訟中の対応を解説します。

  • 損害賠償・慰謝料は、原則として自己破産の免責対象になり得ます。
  • 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償は、非免責債権として残る可能性があります。
  • 故意又は重大な過失により人の生命・身体を害した損害賠償も、非免責債権になる可能性があります。
  • 不貞慰謝料・離婚慰謝料・交通事故の損害賠償は、原因と損害内容によって結論が変わります。
  • 判決・和解・示談書がある場合でも、非免責かどうかは書面の内容と事実関係を確認します。

坂尾陽弁護士

「損害賠償だから自己破産しても消えない」「慰謝料だから必ず残る」と決めつけるのは危険です。請求の原因、損害の内容、書面の記載を分けて確認しましょう。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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損害賠償・慰謝料は自己破産で原則免責されるが例外がある

自己破産では、裁判所から免責許可決定を受け、その決定が確定すると、原則として破産手続開始前の原因に基づく破産債権について支払責任を免れます。損害賠償請求権や慰謝料請求権も、破産手続開始前の事故、契約違反、不法行為などを原因として発生したものであれば、まずは破産債権として整理します。

ただし、破産法253条1項は、免責許可決定が確定しても責任を免れない債権を定めています。これを非免責債権といいます。損害賠償・慰謝料で特に重要なのは、同項2号の「悪意で加えた不法行為」と、同項3号の「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」です。

請求の種類 自己破産での基本的な扱い 注意点
契約違反による損害賠償 原則として免責対象になり得ます。 詐欺的な勧誘や横領など、不法行為性が強い場合は別途検討します。
物損事故の損害賠償 単なる不注意であれば免責対象になり得ます。 意図的な破壊や悪質な加害行為であれば、悪意の不法行為が問題になります。
人身事故の損害賠償 通常の過失か、重大な過失かで判断が分かれます。 故意又は重過失による生命・身体侵害は非免責債権になり得ます。
不貞慰謝料・離婚慰謝料 一律に非免責とはいえません。 単なる不貞行為を超えて、相手を積極的に害する事情があるかを確認します。
詐欺・横領・暴行等の損害賠償 非免責債権として残る可能性が高くなります。 刑事事件の罰金等は、別の非免責債権としても問題になります。
MEMO

損害賠償・慰謝料は、「請求名目」だけで決めません。契約違反なのか、不法行為なのか、悪意・故意・重過失があるのか、生命・身体損害なのかを順番に確認します。


破産法253条1項2号と3号の違い

損害賠償・慰謝料の非免責性を考えるときは、破産法253条1項2号と3号を混同しないことが重要です。どちらも損害賠償に関する非免責債権ですが、対象となる行為と損害の範囲が異なります。

区分 条文上のポイント 主な対象 判断の中心
2号 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 詐欺、横領、悪質な取引、意図的な権利侵害など 単なる故意ではなく、相手を不正に害する意欲があったか
3号 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 暴行傷害、危険運転、重大な過失による人身事故など 生命・身体損害か、故意又は重過失があるか
通常の損害賠償 上記に当たらない破産債権 一般的な契約違反、通常の過失による物損事故など 破産手続開始前の原因に基づく債権として免責対象になるか

2号は、損害の内容が財産的損害や精神的損害であっても問題になり得ます。たとえば、相手をだまして金銭を受け取る、返す見込みがないことを認識しながら取引を継続する、預かったお金を個人的に使い込む、といった場面です。

3号は、人の生命又は身体を害する不法行為が対象です。物だけが壊れた物損事故は、通常、3号の問題ではありません。ただし、同じ交通事故でも、けがや死亡が発生しており、しかも故意又は重大な過失がある場合は、3号の非免責債権に当たる可能性があります。

注意

「故意があるから必ず2号」「けがをさせたから必ず3号」と単純にはいえません。2号では悪意、3号では生命・身体損害と故意・重過失の有無を、それぞれ別に確認します。


悪意で加えた不法行為とは単なる故意より重い

破産法253条1項2号の「悪意」は、日常用語の「悪い気持ち」や、民法上の「事情を知っている」という意味だけで理解すると誤りやすい言葉です。自己破産の非免責債権で問題になる悪意は、単なる故意より重く、相手を不正に害する意欲があったかが問題になります。

たとえば、返済が苦しい状態で契約をした、後から支払えなくなった、相手に迷惑をかける結果になったというだけでは、直ちに「悪意で加えた不法行為」とまではいえません。相手の権利や利益を害することを認識しながら、自己の利益を優先して不正に損害を与えたと評価できる事情が必要になります。

裁判例では具体的な事実関係が重視される

最高裁第三小法廷平成12年1月28日判決は、破産者であるにもかかわらずクレジットカードの発行を受け、これを利用して商品等を購入した行為について、悪意による不法行為を構成するとした事案です。単に「カードを使ったから非免責」という意味ではなく、破産者の状態、カード発行・利用の経緯、商品購入の態様などの事実関係が問題になったものです。

また、東京高裁令和4年12月8日判決は、破産法253条1項2号の「悪意」について、不法行為の要件としての故意とは異なるとし、自己の利益を優先して不正に相手を害する意欲があったかを具体的に検討しています。この裁判例も、悪意を形式的に判断するのではなく、資金の見通し、手付金の使い道、相手方に損害を負わせる結果の認識などを総合して判断しています。

悪意が問題になりやすい例

  • 詐欺的な借入れ:収入や資産、使途、返済可能性について重要な虚偽説明をして金銭を受け取った場合です。
  • 預り金の使い込み:相手に返すべきお金や預かったお金を、自己のために流用した場合です。
  • 支払見込みのない取引継続:履行できないことを認識しながら、代金や手付金を受け取った場合です。
  • 意図的な権利侵害:相手に損害を与える目的で財産を処分し、損害賠償が発生した場合です。
  • 悪質な名誉毀損・プライバシー侵害:相手を害する意図が強い投稿や拡散により慰謝料が発生した場合です。

もっとも、上記に似た場面でも、すべてが非免責債権になるとは限りません。資金繰りの見込みが一応あった、相手を害する意図まではなかった、通常の取引上の失敗にとどまる、といった事情があれば、争いになる余地があります。


故意又は重大な過失による生命・身体侵害は免責されないことがある

破産法253条1項3号は、破産者が故意又は重大な過失により加えた、人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権を非免責債権としています。

この類型では、まず「人の生命又は身体を害する」損害かどうかを確認します。けが、後遺障害、死亡、治療費、休業損害、逸失利益、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などが問題になります。物が壊れただけの物損は、通常、この3号の対象ではありません。

次に、故意又は重大な過失があるかを確認します。故意とは、結果の発生を認識しながら行為することをいいます。重大な過失とは、通常求められる注意義務を著しく欠くような大きな落ち度をいいます。

ケース 非免責性の考え方 確認する事情
暴行によりけがをさせた 故意による身体侵害として非免責債権になりやすいです。 暴行の態様、けがの内容、刑事記録、示談内容を確認します。
危険運転で人身事故を起こした 重大な過失による生命・身体侵害として問題になります。 飲酒、無免許、著しい速度超過、信号無視、事故態様を確認します。
通常の不注意による人身事故 当然に非免責とはいえません。 過失の程度、道路状況、保険対応、判決・和解内容を確認します。
物損のみの事故 3号ではなく、原則として免責対象か2号該当性を検討します。 意図的な破壊、悪意の有無、事故の原因を確認します。

交通事故では、被害者にけががあるか、物損だけか、加害者の過失が通常の過失にとどまるか、重大な過失といえるかで結論が大きく変わります。任意保険会社が対応している場合でも、免責対象・非免責対象の判断は、保険の有無だけで決まりません。


慰謝料は種類ごとに免責の可否が変わる

慰謝料は、精神的損害に対する損害賠償です。慰謝料という名前が付いていても、原因はさまざまです。不貞、離婚、DV、交通事故、名誉毀損、セクハラ、パワハラ、犯罪被害など、原因ごとに非免責性の判断が変わります。

慰謝料の種類 自己破産での基本的な考え方 注意点
不貞慰謝料 一律に非免責とはいえません。 単なる不貞を超えて、配偶者を害する意図や悪質な事情があるかを確認します。
離婚慰謝料 原因によって判断が分かれます。 不貞、暴力、モラハラ、悪意の遺棄など、原因を分けて検討します。
DV・暴行の慰謝料 身体侵害を伴う場合、非免責債権になりやすいです。 診断書、警察資料、保護命令、刑事記録、写真などが重要です。
交通事故慰謝料 通常の過失か重過失かで結論が変わります。 人身事故か物損か、飲酒・無免許・著しい速度超過の有無を確認します。
名誉毀損・プライバシー侵害の慰謝料 悪意で加えた不法行為に当たるかを検討します。 投稿内容、拡散状況、目的、削除対応、謝罪の有無を確認します。
セクハラ・パワハラ慰謝料 身体侵害・精神障害の有無や行為の悪質性で判断します。 故意、継続性、診断書、職場記録、調査報告書などを確認します。

不貞慰謝料は必ず非免責になるわけではない

不貞慰謝料については、「不倫だから悪意がある」と単純にはいえません。破産法253条1項2号の悪意は、単なる故意や違法性の認識よりも重く、相手を不正に害する意欲があったかが問題になります。

そのため、不貞行為があったとしても、通常の不貞慰謝料は免責対象になる可能性があります。一方で、配偶者や家庭を積極的に害する目的がある、嫌がらせや侮辱行為を伴う、重大な虚偽説明や悪質な侵害があるなどの事情があれば、非免責性が争われることがあります。

DV・暴行の慰謝料は非免責になりやすい

DVや暴行によってけがを負わせた場合、故意による身体侵害として、破産法253条1項3号の非免責債権に当たる可能性があります。治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害に関する損害などが問題になります。

身体侵害がある場合は、診断書、通院記録、写真、警察への相談記録、保護命令申立ての資料、刑事事件の記録などが重要です。慰謝料の名目だけでなく、身体侵害の有無と故意・重過失の有無を説明できる資料を整理しましょう。

なお、養育費・婚姻費用は慰謝料とは別の非免責債権です。離婚関係のお金全体を確認したい場合は、自己破産と養育費・婚姻費用の関係を解説した記事も参考にしてください。


交通事故の損害賠償は物損・人身・過失の程度で分ける

交通事故の損害賠償は、自己破産で特に誤解が多い分野です。交通事故だから必ず非免責というわけではありません。物損か人身か、過失が通常の過失にとどまるか重大な過失に当たるかを分けて確認します。

物損事故は原則として免責対象になり得る

車や塀、建物、物品などを壊しただけの物損事故で、原因が通常の不注意にとどまる場合は、原則として免責対象になり得ます。もちろん、事故前に保険対応がどうなっているか、示談が成立しているか、保険会社からの求償があるかなどは別途確認します。

人身事故は故意又は重大な過失があるかを見る

人身事故では、被害者のけがや死亡に関する損害賠償が問題になります。ただし、破産法253条1項3号は、すべての人身事故損害を非免責にしているわけではありません。故意又は重大な過失がある場合に、非免責債権として残る可能性があります。

重大な過失が問題になりやすい事情としては、飲酒運転、無免許運転、著しい速度超過、危険な信号無視、スマートフォン注視など、通常の不注意を大きく超える危険な運転が考えられます。ただし、どの事情で重過失と評価されるかは、事故態様と証拠によって変わります。

保険がある場合も破産手続との関係を確認する

任意保険や自賠責保険で被害者への支払いが進む場合、破産者本人にどの範囲で債務が残るか、保険会社から求償されるか、免責対象になるかを整理する必要があります。事故証明書、示談書、保険会社からの通知、訴訟資料をまとめて確認しましょう。


詐欺・横領・刑事事件の賠償は非免責になりやすい

詐欺、横領、窃盗、暴行、傷害、業務上横領など、刑事事件に関連して損害賠償や被害弁償を求められている場合は、自己破産で免責されるかを慎重に確認する必要があります。

詐欺や横領のように、相手をだます、預かった財産を使い込む、返すべき財産を自己の利益のために処分する行為は、悪意で加えた不法行為に当たる可能性があります。暴行や傷害のように、人の身体を害する行為は、故意による身体侵害として非免責債権になりやすいです。

刑事事件に関連する支払い 自己破産での注意点
被害者への損害賠償 悪意の不法行為又は故意・重過失による生命・身体侵害として非免責になる可能性があります。
示談金・被害弁償 名目ではなく、元になった被害の内容と合意書の記載を確認します。
罰金・科料 破産法上、損害賠償とは別に非免責債権として扱われます。
追徴金・過料など 免責されない類型に当たるか、通知書や裁判書を確認します。

刑事事件では、被害者との示談が量刑や不起訴判断に影響することがあります。しかし、破産手続の直前に特定の被害者へだけ高額の支払いをすると、破産手続上の説明が必要になることもあります。支払う側は、刑事弁護と破産手続の両方を見ながら進める必要があります。


判決・和解・示談書がある場合の確認ポイント

すでに損害賠償や慰謝料について、判決、和解調書、調停調書、公正証書、示談書がある場合でも、それだけで非免責かどうかが常に明確になるとは限りません。書面に何が書かれているか、どの事実を前提にしているかを確認します。

非免責かどうかは書面の名目だけで決まらない

示談書に「慰謝料」「解決金」「損害賠償」と書かれていても、その原因が不貞なのか、暴行なのか、交通事故なのか、詐欺なのかで結論が変わります。また、和解では当事者が争いを終わらせるために抽象的な文言にすることがあり、後から非免責性が争いになることもあります。

支払う側は、判決理由、請求原因、和解条項、示談書の前提事実、金額の内訳を整理しましょう。請求する側は、非免責債権として主張したい場合、単に「慰謝料」と書くのではなく、悪意、故意・重過失、生命・身体侵害を基礎づける事実や証拠を整理することが重要です。

免責後の請求では非免責性が争われることがある

最高裁第一小法廷平成26年4月24日判決は、免責許可決定が確定した後、破産債権者表に記載された債権が非免責債権に当たることを理由として、その破産債権者表について執行文付与の訴えを提起することは許されないとしました。

この裁判例からも分かるように、免責後に「この損害賠償は非免責だから支払え」と請求する場面では、どの手続で、どの資料に基づいて、非免責性を主張・反論するかが問題になります。免責許可決定が出たからすべて終わり、又は判決があるから必ずすぐ強制執行できる、とは限りません。

自然債務と説明される場面にも注意する

自己破産で免責された通常の債権は、一般に、裁判や強制執行で回収する力が失われる自然債務として説明されることがあります。つまり、債務の存在そのものをどう説明するかとは別に、債権者が法的に請求・強制執行できるかが問題になります。

ただし、免責後に自発的に支払った場合、支払後に取り戻せるかは別問題です。また、免責対象か非免責かが争われている状態で支払の約束をすることにはリスクがあります。免責後に請求を受けた場合は、すぐに支払を約束せず、請求の根拠を確認しましょう。


訴訟中に自己破産する場合の注意点

損害賠償や慰謝料の訴訟中に自己破産を申し立てる場合は、通常の借金だけの場合よりも整理すべき事項が増えます。訴訟があること、相手方の住所、請求額、請求原因、裁判所名、事件番号、期日、提出済み書面などを破産申立て側の弁護士に必ず伝えましょう。

損害賠償請求が破産債権に当たる場合、破産手続との関係で訴訟の進行や債権届出が問題になることがあります。また、非免責債権に当たるかどうかは、破産手続とは別に、損害賠償の発生原因や証拠を踏まえて争われることがあります。

  • 支払う側:訴状、答弁書、準備書面、証拠、和解案、判決をすべて提出します。
  • 請求する側:相手が破産した場合、債権届出、免責への意見、非免責性の主張資料を検討します。
  • 和解中の場合:分割払いの約束、期限の利益喪失条項、非免責に関する文言を確認します。
  • 判決後の場合:判決理由、主文、損害項目、非免責性を基礎づける事実を確認します。

特に、自己破産を検討しているのに、訴訟中の相手を債権者一覧表に載せないことは危険です。知っていながら債権者一覧表に記載しなかった債権は、別の非免責債権として問題になることがあります。債権者漏れのリスクは、自己破産で財産隠し・債権者漏れをした場合の記事も確認してください。


支払う側が自己破産前に整理すべき資料

損害賠償・慰謝料がある状態で自己破産を検討する場合、弁護士に相談する前に、請求の根拠と事実関係を整理しておくと判断がしやすくなります。

  • 請求書・通知書:相手方、請求額、支払期限、請求原因を確認します。
  • 訴訟資料:訴状、答弁書、準備書面、証拠、期日呼出状、判決を準備します。
  • 示談書・和解書:慰謝料、損害賠償、解決金などの名目と内訳を確認します。
  • 事故資料:交通事故証明書、診断書、修理見積書、保険会社の通知を確認します。
  • 刑事事件資料:起訴状、略式命令、判決、示談書、被害弁償の資料を準備します。
  • 支払履歴:これまでの振込、現金払い、分割払いの履歴を通帳や領収書で確認します。

また、損害賠償・慰謝料を一部だけ先に払う場合は、偏頗弁済として問題にならないかも確認が必要です。破産申立て前に特定の相手へだけ支払うリスクは、自己破産前の偏頗弁済を解説した記事も参考にしてください。

免責不許可事由があるかどうかも同時に確認しましょう。たとえば、損害賠償の原因となる行為が詐欺的な借入れや浪費、換金行為、財産隠しなどと関係する場合、個別の損害賠償が非免責かどうかだけでなく、自己破産全体の免責判断にも影響することがあります。詳しくは、自己破産の免責不許可事由を解説した記事も確認してください。


請求する側が相手の自己破産を知ったときの対応

損害賠償・慰謝料を請求している側が、相手の自己破産を知った場合は、まず請求権の内容を整理します。相手が破産したからといって、すべての請求が当然に消えるわけではありませんが、破産手続中の個別回収には制限がかかることがあります。

破産手続の情報を確認する

破産手続開始決定日、裁判所、事件番号、破産管財人の有無、債権届出期間、免責に関する意見申述期間を確認します。相手方の代理人弁護士から通知が来ている場合は、通知書を保管しておきましょう。

非免責性を主張できる資料を整理する

悪意の不法行為を主張する場合は、相手を不正に害する意欲を基礎づける事情が重要です。故意・重過失による生命・身体侵害を主張する場合は、診断書、事故態様、刑事記録、写真、録音、メッセージ、警察資料などを整理します。

債権届出・免責への意見・別訴の要否を検討する

破産手続内で債権届出をするか、免責に関して意見を出すか、既存の訴訟をどう進めるか、免責後に非免責債権として請求するかは、事案によって変わります。損害賠償額が大きい場合や、相手の行為が悪質な場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。


損害賠償・慰謝料と自己破産でよくある質問

損害賠償は自己破産ですべて免責されますか?

すべて免責されるわけではありません。契約違反や通常の過失による損害賠償は原則として免責対象になり得ますが、悪意で加えた不法行為や、故意・重大な過失による生命・身体侵害に当たる場合は、非免責債権として残る可能性があります。

慰謝料は自己破産で免責されますか?

慰謝料の原因によります。不貞慰謝料や離婚慰謝料は一律に非免責ではありません。DV、暴行、悪質な名誉毀損、詐欺的行為など、悪意・故意・重過失が問題になる場合は、非免責債権として残る可能性があります。

不貞慰謝料は自己破産しても残りますか?

必ず残るわけではありません。通常の不貞慰謝料は免責対象になる可能性があります。ただし、相手方配偶者や家庭を積極的に害する意図、嫌がらせ、侮辱、悪質な虚偽説明などがある場合は、悪意の不法行為として非免責性が争われることがあります。

交通事故の損害賠償は自己破産で免責されますか?

物損事故や通常の過失にとどまる事故は、原則として免責対象になり得ます。一方で、飲酒運転、無免許運転、著しい速度超過など重大な過失によって人にけがをさせた場合は、非免責債権として残る可能性があります。

判決で慰謝料の支払いを命じられていても免責されますか?

判決があるだけで、必ず免責されないとは限りません。判決で認定された事実、慰謝料の原因、悪意・故意・重過失、生命・身体侵害の有無を確認します。判決理由が重要になるため、主文だけでなく判決全文を確認しましょう。

示談書に「非免責」と書けば必ず残りますか?

当事者が「非免責」と書いたことは一つの事情になり得ますが、最終的には破産法253条1項各号に当たる事実があるかが問題になります。示談書の文言だけでなく、実際の行為内容と証拠を確認する必要があります。

免責後に損害賠償を請求されたらどうすればよいですか?

すぐに支払を約束せず、請求の原因、判決・和解・示談書の有無、非免責債権と主張する根拠、破産手続で債権者一覧表に記載していたかを確認します。免責対象の債権か非免責債権かで対応が変わります。

損害賠償が非免責でも自己破産する意味はありますか?

あります。損害賠償の一部が残る場合でも、カードローン、消費者金融、クレジットカードなど他の借金が免責されれば、残る損害賠償の支払いに回せる余力が生まれることがあります。非免責債権がある場合こそ、全体の支払計画を見直すことが重要です。


まとめ

損害賠償・慰謝料は、自己破産で必ず免責されるわけでも、必ず残るわけでもありません。破産手続開始前の原因に基づく損害賠償・慰謝料は原則として免責対象になり得ますが、破産法253条1項2号・3号に当たる場合は、免責後も支払義務が残る可能性があります。

  • 損害賠償・慰謝料は、請求名目ではなく原因と事実関係で判断します。
  • 悪意で加えた不法行為は、単なる故意より重く、不正に相手を害する意欲が問題になります。
  • 故意又は重大な過失による生命・身体侵害は、非免責債権になり得ます。
  • 不貞慰謝料・交通事故・刑事事件・示談金は、それぞれ確認すべき資料が異なります。
  • 訴訟中・判決後・免責後に請求された場合は、支払を約束する前に非免責性を確認しましょう。

損害賠償や慰謝料がある自己破産では、通常の借金整理よりも法的判断が複雑になります。請求書、判決、示談書、事故資料、診断書、刑事記録、保険会社の通知などを整理し、免責されるものと残る可能性があるものを早めに分けて確認してください。

坂尾陽弁護士

損害賠償・慰謝料がある場合でも、自己破産をあきらめる必要はありません。大切なのは、残る可能性がある支払いを見落とさず、生活再建のためにどの債務をどう整理するかを具体的に考えることです。

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